映画ライター渥美志保さんによる連載。ジャンル問わず、ほぼすべての映画をチェックしているという渥美さんイチオシの新作『ブックセラーズ』をご紹介。作品の見どころについてたっぷりと語っていただきました!
自分の世界を追求する個性的な本好きたち
コロナ禍の影響で生活スタイルが変わったせいか、本が売れている、という話をよく聞きます。私自身は、ここ数年は、すぐに手に入るし一度に何冊も持ち歩ける電子書籍派なのですが、実際の本の素敵な装丁を見ると、電子書籍って便利だけどちょっと味気ないかも……なんて思うことも。
『ブックセラーズ』は、まさにそうした「味気ない電子書籍」とは対局の世界を描いた作品。NYで古書業に関わるブックディーラーたちを追ったドキュメンタリーです。
映画は、世界最大規模のNY古書フェアから。そこで古書を売買しに来ている人が、ブックディーラーです。ディーラーというくらいだから、本で商売をしている人たちではあるのですが、どちらかというとコレクターという印象で、「ホントに商売になってるのかな~?」と心配になるような感じ。
コレクターとは「病的で偏執的で衝動的」で、自分の欲しい物のためなら「祖母さえも売るような人」。映画はその言葉を裏付けるような、本をこよなく愛する、でもちょっと変な人たちが次々と登場します。
その最たるものが「モノとしての本」の魅力。電子書籍にないものとしてすぐに思い浮かぶのは、装丁とかブックカバーの類なのですが、なかにはちょっと近づくのすら怖いような驚愕の素材で作られたものも。「その話をすると、『触らせて』っていう人と『近寄るのもイヤ』っていう人の二手に分かれるんだよね(笑)」と語る顔のうれしそうなこと。
車にひかれたとか、グラスを置いた跡がついてるとか、冷凍マンモスの毛が封入されてるとか。それホントに価値あるの?って思うような本を「売れなくてもいい」と何万冊も持っている人がいるかと思えば、素晴らしく美しい個人の図書館を作り上げた人や、「レオナルド・ダ・ヴィンチの手稿(手書き本)」という恐ろしく貴重な本を手に入れる人もいたりして。
「古い本」「古い本が好きな人」というひと言ではくくれないコレクターの世界に、笑っちゃうやら圧倒されるやら。
そういえば、すごい昔に、友人から借りた古い文庫本が読んでいるうちにカバーが破れてしまい「ごめーん」と何の気なしに謝って返却したら、相手が呆然としてたのを思い出しました。思えば、その人は何事にもマニアなタイプだったなあ。
ちなみに、古書はカバーがキレイについているだけで、価値も値段も全然変わっちゃうらしいですよ。
『ブックセラーズ』
監督/D.W.ヤング
製作総指揮&ナレーション/パーカー・ポージー
(c)Copyright 2019 Blackletter Films LLC All Rights Reserved
http://moviola.jp/booksellers/
※4月23日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開
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