映画ライター渥美志保さんによる連載。ジャンル問わず、ほぼすべての映画をチェックしているという渥美さんイチオシの新作をご紹介。作品の見どころについてたっぷりと語っていただきました!
人生の幸不幸は、いつも隣り合わせ
今年もそろそろやって来るアカデミー賞の季節。昨年のパラサイトに続いて台風の目となりそうな韓国映画がこの作品です。
映画の主人公は、豊かな暮らしを求めてアメリカに移民した韓国人の一家。父親の「広大な農場を持つ」という夢に引っ張られて、田舎の町に引っ越してくるのですが、雨は降りそうにないし土地も痩せていて、到底農場になるようには思えない、さらに用意された家はトレイラーハウス。我慢の末、ついに奥さんがキレるのは、農場が軌道に乗るまでは自分も働かなければいけないのに、家から病院までがすごーく遠いこと。幼い末息子は心臓にトラブルを抱えているからです。どうにもこうにもならなくなった最後の手段で、妻は息子の面倒を見てもらおうと、韓国から年老いた母を呼び寄せます。
物語が描くのは、夫婦による苦難の連続の農場づくりと、その傍らでケンカするお婆ちゃんと孫息子のやりとりです。掴まされたのはとんでもない不毛の地、独自理論で掘った井戸は枯れるし、手伝いとして雇えたのは地元のハグレ者、もちろん差別的な扱いもあり……と両親は次から次へと苦難に見舞われます。
このシリアスさを和らげるのが、おばあちゃんと孫息子の攻防。生まれも育ちもアメリカの孫息子は生意気にも、骨の髄まで韓国人の祖母に対して「臭い!」と差別的で、数々の反抗的ないたずらを繰り返します。最初は「いいよ、いいよ」と許しているんですが、そのうち「このクソガキ!」となってきて、やがて心を通わせるようになってゆきます。
映画のタイトル「ミナリ」は、おばあちゃんが「いざというとき食べられるから」と韓国からこっそり持ってきた「セリ」のこと。こっそりと水場に植えたこのセリが茂ってゆくさまを、家族がこの地に根を張ってゆく過程に重ねています。幸せと不幸はいつも背中合わせにあると思わせるラストの奇跡には胸がいっぱいに。
主演のお父さん役は『ウォーキング・デッド』で人気のスティーブン・ユアン。そして韓国の人気バラエティ『ユン食堂』でも人気の祖母役ユン・ヨジョンは、この作品でオスカーを受賞する最初の韓国人女優になりそうです。
『ミナリ』
脚本・監督/リー・アイザック・チョン
出演/スティーヴン・ユァン、ハン・イェリ、ユン・ヨジョンほか
https://gaga.ne.jp/minari/
(c)2020 A24 DISTRIBUTION, LLC All Rights Reserved.
※3月19日(金) TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
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