映画ライター渥美志保さんによるシネマ連載。ジャンル問わず、ほぼすべての映画をチェックしているという渥美さんイチオシの新作をご紹介。作品の見どころについてたっぷりと語っていただきました!
「ミス・コン」をテーマに浮き彫りにされる、女性が強いられる様々なこと
幼い頃に両親をなくし、学もなく金もなく、アルバイトで食いつないでいるアレックスは、幼馴染の初恋相手が夢を叶えたことに一念発起し、幼い頃の夢だった「ミス・フランス」を目指し奮闘を始めます。
映画は、周囲の協力に支えられ、地区大会で優勝し、地区代表が集まる「ミス・フランス合宿(?)」から最終選考までの過程を描いてゆくのですが、この映画の何が新しいかといえば、アレックスが生物学的に男性として生まれた人であること。そして、こういう言い方どうかと思いますが、言われなければそうとはわからないほど美しいことです。
これまでも映画で描かれてきた、いわゆる「ミスコン」の裏側は、この手の映画を見るのが初めての人にはすごく面白いと思います。ミスコン、とくに「ミス・ユニバース」のような大会は、候補者全員でキャンペーン活動で世界中を回る、その過程そのものが選考会になっています。映画もそういう過程を、ある意味でコミカルに描いていくわけですが、ボランティアで行かされたゴミ集積場で悪臭に絶えながら笑顔でパチリ、寒風吹きすさぶ冬の海岸で笑顔でパチリ、かと思えばダンスのレッスンがあったり、テーブルマナーを覚えなきゃいけなかったり、そりゃもう過酷なんですね。
そういう中に投げ込まれたアレックスは、めちゃめちゃしっかりと主張する周囲に気後れしつつ、「自分はなんでミス・フランスになりたいんだろう?」と考え始めます。勝者になりたいのか、それとも女性になりたいのか。
彼女(彼)にとって「勝者になる」ってなんでしょう? 自分の性別を隠してミス・フランスになり、ずっと本当の自分を隠し続けること? それともミス・フランスに選ばれた後に、実は男性だったと分かったら、そりゃあ有名にはなるでしょう。でもきっと誰も女性とは認めてくれませんよね。それらのすべてを隠して、女性としてミス・フランスであり続けることでしょうか?
映画はミスコンが象徴する「憧れ」「ルッキズム」「女性の物的消費」などの問題を指摘し、一方ではそれを自ら追い求め、もう一方ではそこから脱却したいと望む女性たちの姿をも描き出します。
物語の前半である人物がアレックスにこう言います。「女になるのは大変よ。失敗すれば尻軽と言われ、成功してもやっぱり尻軽と言われる」。アレックスは男性であるがゆえに、女性であるがゆえに強いられる様々なことが、より明確に浮き彫りになります。そんな中でアレックスが手にする栄光とは。
ヒロインを演じるジェンダーレスモデル、アレクサンドル・ヴェテールの超絶の美しさも必見です。
『MISS ミス・フランスになりたい!』
監督/ルーベン・アウヴェス
原案・脚本/ルーベン・アウヴェス、エロディ・ネイマー
出演/アレクサンドル・ヴェテール、イザベル・ナンティ、パスカル・アルビロほか
https://missfrance.ayapro.ne.jp/
(c)2020 ZAZI FILMS – CHAPKA FILMS – FRANCE 2 CINEMA – MARVELOUS PRODUCTIONS
※2月26日(金)シネスイッチ銀座ほか全国ロードショー
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