暴力的な夫から逃れるために、2人の息子とともに家を飛び出しマンハッタンにやってきた主婦クララ。行き場を失った彼女は、経営不振の老舗ロシア料理店の未使用フロアにこっそりと住みついて・・・。そこに出入りする、傷を持つがゆえに、心優しい変わり者たちの小さな優しさとユーモアが、クララの道をどう開いていくのか。
海外へ旅に出れない今、映画で実現するNY観光名所巡りも楽しいという、この映画の見どころを、映画ライター渥美志保さんにたっぷりと語っていただきました!(編集部)
小さな親切が積み重なれば、誰かを救うことが出来る!‽
夫のDVから逃れるために、2人の息子とともに家を飛び出しマンハッタンにやってきた主婦クララ。DV被害者保護に関わる人に取材したことがあるのですが、「逃げたい!と思ったその瞬間に逃げることが大事!」らしく、クララもそんな感じで飛び出してきたために、ただクルマに子供2人を乗っけて出てきただけ。お金も住む場所もなーんにも持っていません。
「とにかく子供を守らねば」必死で忍び込んだのは、いまいち流行っていない老舗のロシア料理店「ウィンターパレス」。倉庫みたいになってるフロアに潜り込み、使われていないピアノの下で寝泊まりし始めます。
映画はこの母息子を中心に、ロシア料理店に集まってきた人たちと、その関わりを描いてゆきます。何しろ面白いのはみんながちょっと変わっていること。
ロシア語訛りを偽装する商売下手な料理店の初老のオーナー、弟の罪をかぶった刑務所帰りのマネージャー、失恋で幸せを見失って以来、人助けのみに邁進する看護師、致命的な要領の悪さで職にあぶれた男・・・みんなが優しさゆえの不器用さを抱えて生きている人ばっかり。
それぞれにクララの窮状を知った彼らは、ちょっとずつ、かわるがわるの優しさとユーモアで彼女を助け、道を切り開く手伝いをしてゆきます。コロナ禍の今、多くの人が辛い生活を強いられていて、誰かを助ける余裕なんてもてないかもしれないけれど、たとえ小さな親切であっても、それが積み重なれば救えるものもある。世界がこうあってほしいなと思います。
映画にはニューヨークの町をウロウロするような楽しみも。海外旅行どころか国内旅行さえもままならないコロナ禍で、旅行好きな私の楽しみは映画の中で旅行気分を楽しむこと。
この映画でもニューヨークの様々な場所が見られますが、一番は「ニューヨーク公共図書館」。最近、ドキュメンタリー映画にもなり、様々な機能と思いが詰まった場所であることも知りましたが、雰囲気もクラシックでほんとに素敵。この禍が一段落したらぜひ行ってみたいですね。
『ニューヨーク 親切なロシア料理店』
監督・脚本/ロネ・シェルフィグ
出演/ゾーイ・カザン、アンドレア・ライズボロー、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズほか
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http://www.cetera.co.jp/NY/
※12月11日(金)シネスイッチ銀座、新宿シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開