さまざまな経験、体験をしてきた作詞家 小竹正人さんのGINGER WEB連載。豊富なキャリアを通して、今だからわかったこと、気付いたこと、そして身の回りに起きた出来事をここだけに綴っていきます。【連載/小竹正人の『泥の舟を漕いできました』】
第55回「コーヒー屋のジャンケンポン」

不思議な人を見かけた。
週に3回は行く近所のコーヒー屋。午後や週末は混んでいるが、住宅街の中にひっそりとあるせいか、平日の午前中はいつも空いている。静かで落ち着くのはもちろんのこと、丁寧にハンドドリップされたブレンドコーヒーがおそろしく美味しい。
10代の頃からコーヒーは必ずアイスだった私が、この店のコーヒーを知ってからホットしか飲まなくなっている。
そして、ここのコーヒーのせいで、自分で淹れたコーヒーはもちろん、某大手コーヒーチェーン店(20代の頃から中毒のように飲み続けていた)のコーヒーまでも飲めなくなってしまった私。これは味の違いか、それとも歳のせいか?
朝9時半。
いつものようにコーヒーを飲みに行く。
普段はテイクアウトすることが多いのだが、10月後半の今日、あまりにも気持ちがいい陽気だったので、テラス席に座って、ほったらかしにしていたメールやLINEに返信。ついでに原稿チェックなどもする。意識の高い若いハードワーカーみたいだが、他にお客さんはいないし、お店の人は干渉してこないし、はかどるったらありゃしない。
20分ほど経って、2杯目のコーヒーを頼んだ頃、ひとりの女性客(推定20代)が店に入ってきた。
アイスカフェラテを注文して、外のテラス席の端っこに座る彼女。
そんな彼女を気にもとめず、私は引き続き原稿修正をしていたのだが、不意に小さく「ジャン、ケン、ポン」と聞こえる。不思議に思って顔を上げると、先ほど来た女性客が、スマホの画面に自分の顔を映しながらひとりでジャンケンをしている。そのジャンケンが普通ではないのだ。グーのときは顎に手を当てて、チョキのときはこめかみに指先を当てて、パーのときは親指を頬に当てて、さしずめアイドルのポージングのようだ。あまりじろじろ見るのも失礼なので、見ていないふうを装いながらもしれーっと見る。少し離れた席にいる私にはまるで気づいていない様子の彼女は、グーチョキパーをやり終えると、おもむろにゴクゴクとカフェラテを飲み、小さくため息をついた。そしてしばらくの静寂。
何だったんだろう今のジャンケンは…と私が思ったのもつかの間、彼女は再びスマホを自分に向けてジャンケンをやり始めた。先程は無表情でやっていたのだが、今度は笑顔で。しかも、ものすっごい笑顔で。
グーもチョキもパーも、さっきよりずっと動きが大きくなって、TikTok用の動画でも撮っているみたいにリズミカル。私はいよいよ目が離せなくなってしまった。
またまたグーチョキパー(ぶりぶり大げさバージョン)をやり終えると、別人みたいに真顔になってアイスカフェラテを飲む彼女。
そこに別の客が2人入ってきて、彼女の斜め前の席に座った。それ以降、奇天烈なジャンケンパフォーマンスが再開されることはなかった。普段、電車の中で見かけるような、物憂げにスマホを見る、ごく普通の若い女性になってしまった。
ああ、これだから外に出るのをやめられない。
完全なるインドア派の私ではあるが、電車に乗ったり、コーヒー屋に行ったりすると、思わぬ人の思わぬ場面に遭遇することがある。昔からHIROさんに「人間ってみんな変わってるけど、おだちゃんは特に変わっている」といわれてきた私。しかし、街に出ると、そんな私など足元にも及ばないほどの変わり者がたくさんいる。
あ、ちなみに私のニュアンスでいう変わり者とは、「見ていて面白い人」「なんだか気になる人」である。チャーミングこそが前提。
私が目撃した今朝の出来事を、親しい友人たちにモノマネしながら報告(しかも少し盛って)するのが楽しみで仕方ない。
それにしても、彼女のあのジャンケンポン、一体何だったんだろう。
What I saw~今月のオフショット

グループ活動に加え、ドラマ「嘘をついた私たち」の撮影で超多忙の砂田将宏(BALLISTIK BOYZ)。この連載のかなりの常連ですね。アメリカ育ちなのに食の好みはThe日本人! おしゃれな料理より、焼き鳥屋や居酒屋で渋めのメニューを選びがち。

一見誰かわかりませんが、BALLISTIK BOYZの加納嘉将(黒T)と深堀未来(白T)。偶然にも、うっかりTシャツがかぶってお揃コーデになってしまい、妙に気まず恥ずかしそうな2人。ヨッシーと未来のこの写真、私的にものすごく和みます。永久保存。
小竹正人(おだけまさと)
作詞家。新潟県出身。EXILE、三代目J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE、E-girls、中島美嘉、小泉今日子など、多数のメジャーアーティストに詞を提供している。著書に『空に住む』『三角のオーロラ』(ともに講談社)、『あの日、あの曲、あの人は』(幻冬舎)、『ラウンドトリップ 往復書簡(共著・片寄涼太)』(新潮社)がある。

