さまざまな経験、体験をしてきた作詞家 小竹正人さんのGINGER WEB連載。豊富なキャリアを通して、今だからわかったこと、気付いたこと、そして身の回りに起きた出来事をここだけに綴っていきます。【連載/小竹正人の『泥の舟を漕いできました』】
第52回「リセットの時間」

40代全般、私は本当に忙しかった。毎日毎日、必ず何かしらの締切があって、一番多い日で、1日に7曲の作詞をした。
作詞の合間に小説やコラムやコメントを書いたり、ガールズグループの教育係をやったり、休みなんて皆無で、今じゃ考えられないような仕事量をこなしながら(実はものすごーく気が小さいので、締切を守らなかったことは一度もない)、それでも、案外へっちゃらで仕事のあとに朝まで酒を飲んでいた。
今思うと、40代って、若さを謳歌できる最後の世代なんだと思うし、あの頃の私ってきっとすごく調子にのっていたんだろうなあとも思う。しかし、調子にのっている人の多くが「調子にのるくらい頑張っている」ということだと思うので、私は過去の自分を悔いたりはしない(開き直り)。
50代になったある日、自分のWikipediaを見て、「今までやった仕事の半分くらいの情報しか載っていないな」と思う一方で、「私ってこんなにも作詞をしたんだ」と他人事みたいに驚いた。
そして、ちょうどそのときにプライベートの方が幸せになってきたので(恋愛ではありません)、仕事を少しセーブすることにした。「休みます!」ではなく、「ペースを落とします!」みたいな感じで。
そこからまず私がやったのは、断酒である。
それまでの私は、仕事でも酒、プライベートでも酒の毎日で、本当に浴びるほど飲酒していた。お酒の席で学んだことは驚くほど多かったし、いろんな人と一緒に飲酒することで私の世界は信じられないくらい広がった。だから、あの飲酒三昧の日々も1ミリも後悔していない。
しかし、寄る年波とともに、二日酔いがどんどんひどくなり、飲んだ次の日は人として機能しないくらいになってしまった。
そこで、私は飲酒を文字通り「卒業」した。
ようやく、自分の時間というものを手に入れた。普通じゃない生活を送ってきた私にとって、普通の暮らしは思っていた以上に幸せだった。
ところが、である。
作詞の数を減らして、酒もやめて、自分の好きなペースで暮らし始めたら、50代も後半に差しかかる頃、病気→入院→骨折→病気→入院→病気→入院→骨折→病気→病気→病気…ってな感じで、病院に住んでますが何か?ってくらい体調を壊した。30代を怠けたせいで、40代を忙しなく過ごしすぎた代償なのか、それとも、自由な時間ができて身も心もだらけてしまったからなのかはわからない。
人は弱ると優しくなる。毒舌が売りの私があまりにも穏やかになってしまい、後輩たちが戸惑っていた。
そして、以前より格段に少ない仕事量なのに、体調が悪いあまり、依頼を断る状況が重なった。
「自分のペースで仕事と向き合う」との決意の奥に、間違いなく「ちょっと楽したい」という気持ちが隠れていた。だから、思わぬバチが当たったのか、と本気で怯えた。
なんでもない顔をしてこの連載を書いていたが、私の中では2024年と2025年は「魔の2年間」として人生に刻まれている。この魔の2年間で崩しまくっていた体調がようやく回復に向かったのが2026年半ばだった。
前回のこの連載でお見せしたように、長年の宝友(たからとも=宝物のような友人。お得意の造語です)の今日子さんと直子さんとハワイに行って、それこそ宝物のような時間を過ごした。何かをずっと誤魔化していた私が「ハッ!」と、本来の私を取り戻したかのような旅だった。
そして迎えた新たな日常。
今のところ健康で、今日も大好きで大得意な冬のドロドロバラード曲(まだ夏だけど)の作詞をして、こんなふうにどうでもいいようなことを連載原稿にも書いている。なんか…充足感。
他人にいわれたら鼻で笑いそうな「リセットの時間」。これ、ホントにホントに大事。しみじみ痛感。どうやら私はまだまだ人生を頑張りたいようです。
What I saw~今月のオフショット

どこぞの外国人ではなく、ライブ終了後の八木勇征(FANTASTICS)です。こちらが心配になるくらい多忙を極めまくっているのに、いつも笑顔でいつも明るい。顔もスタイルも性格もズバ抜けていい。後輩ながら尊敬。そして…私は生まれ変わったら勇征になりたいと密かに、しかし本気で願ってます。

大活躍中の石井杏奈と定例ランチ。杏奈世代との会話は私にとって重要なインプット。話が全く尽きないし、思わぬ知見が広がるし、とにかくたくさん笑える。本文で書いた「封印したと思っていた私の毒舌」がまだまだ健在だと気づいてしまった昼下がり。杏奈、ごめんね、ありがとう。
小竹正人(おだけまさと)
作詞家。新潟県出身。EXILE、三代目J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE、E-girls、中島美嘉、小泉今日子など、多数のメジャーアーティストに詞を提供している。著書に『空に住む』『三角のオーロラ』(ともに講談社)、『あの日、あの曲、あの人は』(幻冬舎)、『ラウンドトリップ 往復書簡(共著・片寄涼太)』(新潮社)がある。

