コロナ禍を経てなお、真偽不明な情報が渦巻く現代社会。そのカオスを圧倒的なリアリティで描いた映画『#拡散』で、主人公・浅岡信治を演じた成田凌さんに、作品への思いを聞いた。
人間の善意と脆さをフラットに見つめる

「チャレンジングなことをやろうとしているな、と思いました」
成田凌さんは本作の脚本を受け取り、そう思ったと言う。本作は、コロナ禍という見えない不安に襲われるさなかで、人生が大きく揺れ動くひとりの男を痛烈に描いたヒューマンドラマ。物語は、妻がワクチンを接種した翌日に亡くなったことから幕を開ける。
「誰もが知っているあのときのことだから、日常からかけ離れた話ではないし、そもそもワクチンの是非については言及されていません。それよりも人間の“欲”に焦点が当てられていて、すごく面白いなと思いました。個人的にはすごく信頼している脚本の港(岳彦)さんの描く、ザワザワッとするような物事の連続にいま在るべき映画だと思い、『ぜひやらせてください』とオファーを受けました」
主人公・浅岡信治の日常は、最愛の妻を失った瞬間から音を立てて崩れ始める。「なぜ彼女は死んだのか」。その問いだけが彼を突き動かし、やがて担当医・高野(役/淵上泰史さん)を激しく糾弾するまでに追い詰めていく。理性と感情の境目が曖昧になっていく浅岡の背中を、さらに押し立てる存在がいる。沢尻エリカさん演じる地方誌の記者・福島美波だ。彼女は浅岡の抱える疑念に寄り添うように見えながら、時に煽り、時に導く。真相を追う記者としての執念なのか、それとも別の思惑なのか。
「この役はぜひ沢尻さんに演じてほしいと思いました。実際に対峙してみても、やはりぴったりなキャスティングだと感じましたね。福島は一見するとさらっと演じられてしまいそうな役ですが、沢尻さんは芯の強さを持ち、さまざまなものを抱えながら向かってきてくださったんです。僕が演じた浅岡のもとには、いろんな欲を理由に人が集まってくるのですが、そのなかでも、福島は突出した“欲”を持って近づいてきてくれて、その姿がとても印象的でした」

物語の核となるのは、寡黙な浅岡が、福島の書いた記事によって“民意”を得てしまったことで、次第にSNSの世界へと取り込まれていく過程だ。深い喪失のなかにいる“悲劇の男”は、いつしか世間から「反ワクチンの象徴」として祭り上げられ、本人の意思とは裏腹に巨大な存在へと膨らんでいく。浅岡はその勢いに押されるように、クリニックへの執拗なバッシングを繰り返し、さらには“世直し系”と呼ばれるユーチューバーとのコラボにも手を伸ばしていく。最初はただ妻の死の理由を知りたかっただけの男が、SNSの熱狂と期待に飲み込まれ、日ごとに行動がエスカレートしていく様は、現代社会の危うさそのものを映し出している。
「浅岡は妻を亡くし、ものすごく大きなストレスを抱えるなかでSNSの世界に入っていきます。そこで自分のことが拡散され、ちやほやされ、承認欲求をはじめとするさまざまな欲が生まれてくる。福島に『あっという間に仕上がりましたね』と蔑まれるのですが、きっと本人には響いていないんですよね。彼は『人は信じたいものを信じる』と言うのですが、自分を見失ってしまった人は、違う意見に耳を傾けられなくなったり、視野が狭くなったりするのかもしれないと感じました」
そんな不安定で危うい男の内側にある“本当の声”に、成田さんは丁寧に耳を澄ませていく。
「冒頭の夫婦生活のシーンは、馴染みすぎた結果として生まれた空気感だと思うんです。楽しそうにするわけでもなく、本当はどう思っているのかもはっきりしない。けれど、亡くなってしまったことで徐々に妻への思いのようなものが見えてくる。でもそれが真っ直ぐな愛情なのかと言われると、そうではない部分もあるんですよね。ひとつの感情が湧き上がってくると、それに付随してさらに別の感情も膨らんでいく。周りから言われることや状況によって感情が生み出され、そしてそれがどんどん大きくなっていく感覚がありました」

SNSの熱狂に押し上げられていく過程、そして自分でも制御できなくなる感情の膨張。そのすべてが浅岡を形作っているものの、彼自身の真意はどこにあるのか。「だから浅岡信治という人物は、自分の意思でしっかり立って動いているわけではなく、どこか地に足がついていない存在なんです」と続ける。
「実体のない浅岡がふわふわと浮遊しているようなイメージ。その状態だからこそ、感情も膨らみ、気も大きくなり、名前だけがひとり歩きしていく。確固たる信念がないまま、欲だけが集まってきて、さらに押し上げられていく。そんな彼自身の本当に思っていることが表に出てくるのは、最後だけなんじゃないかと感じています」
そんな浅岡という人物は、実は私たち自身の“分身”なのかもしれない。気づかないうちに周囲の空気に流されてしまったり、SNSで見かけた情報を深く考えずに受け取ってしまったり。現代に生きる誰もが抱える脆さや迷いが、彼の姿に重なって見えてくる。
だからこそ、彼の暴走は決して他人事ではない。極端な状況に置かれれば、誰のなかにも浅岡のような部分が顔を出す可能性がある。彼の物語は、現代を生きる私たちの心の奥に潜む影を指し示すようだ。
「実態のない“何か”に振り回され、気づけば巻き込まれてしまう――そんな経験は、自分にもあるなと思いました。顔の見えない誰かに褒められたり、貶されたり、その繰り返しのなかで心が揺さぶられることってありますよね。
完成を観たとき、楽しんでいたはずなのに、ふと心の奥のほうをベタベタと触られているような、妙な感覚が残ったんです。きっと誰のなかにも、見ないようにしている部分や、触れられたくない部分がある。本作は、まさにその“触れられたくない場所”に手を伸ばしてくるような作品になっていると思います」
【2月27日公開!】映画『#拡散』

キャスト/成田凌、沢尻エリカ、淵上泰史、山谷花純、赤間麻里子、船ヶ山哲、鈴木志音、DAIKI、MIOKO、高山孟久ほか
原案・編集・監督/白金(KING BAI)
脚本/港岳彦
配給/株式会社ブシロードムーブ
kakusan-movie.com
成田凌(なりたりょう)
1993年11月22日生まれ、埼玉県出身。2013年、ファッション誌「MEN'S NON-NO」の専属モデルとしてキャリアをスタートし、ドラマ「FLASHBACK」(14)にて俳優デビュー。映画『スマホを落としただけなのに』(18)、『ビブリア古書堂の事件手帖』(18)での第42回日本アカデミー賞新人俳優賞受賞を皮切りに、『チワワちゃん』(19)、『愛がなんだ』(19)、『さよならくちびる』(19)、『翔んで埼玉』(19)、『人間失格 太宰治と3人の女たち』(19)の計5作品で第93回キネマ旬報ベスト・テンを、『カツベン!』(19)では毎日映画コンクール男優主演賞を次々に受賞。さらに、『窮鼠はチーズの夢を見る』(20)、『糸』(20)などの演技で第63回ブルーリボン賞助演男優賞にも輝いた。繊細さと熱量を兼ね備えた演技で、世代を代表する実力派俳優として高く評価されている。
Instagram @_ryonarita_
SHOP LIST
ジョルジオ アルマーニ ジャパン
03-6274-7070

