本当は興味津々なのに、決して踏み出せない――芸人 紺野ぶるまさんの自分観察。【連載「奥歯に女が詰まってる」】
美容クリニックで憤慨する女
先日、顔の中央にあるホクロかシミかわからない「点」二つが急に気になり出した。
これを取れば結構印象が変わるのではといろんなクリニックのホームページを検索してみるも、一体どのメニューが適してるのか一向にみえてこない。
わかるのはどのクリニックも常に何かしらが安くなってるということだけだ。こっちは“課金”する気があので、この時間はなかなかストレスだった。
偶然、美容に詳しいタレントさんに会ったので尋ねると「一発で取りたいならピコスポット(シミを取るためのレーザー名)」と惜しみなく情報をくれた。早速家の近くのクリニックを予約し行ってきた。
カウンセリングの際、
「この点二つを取りたい」旨を伝えると間髪入れずに「そこだけで大丈夫ですか?」と言われる。
「他にも同じようなシミがたくさんあるから、プラス4万出して取り放題がおすすめ」だと。
そうそう、この感じだと思い出した。
以前、目が花粉の炎症で一重になって戻らなかったとき、別のクリニックに二重まぶたの埋没法のカウンセリングを受けに行った。
確か2万円くらいで出来ると記載されいたのに「目の上の脂肪吸引と、目が少し離れ気味だから目頭切開をした方がいい」と30万円の見積もりを出され、怒りと新しいコンプレックスを抱えて何もしないで帰ったんだった。
この人たちは美容クリニックのスタッフとして売上のために仕事をしているだけなのだが、それにしたって上手じゃない。
仲のいい女友達同士でも「シミがたくさんある」なんて言ったら腹が立つのに、言葉の配慮をしないクリニックに誰が痛みを伴う施術を任せるのだろう。
もし「この二つの点を取ったら、さらにお肌が明るく見えそうですね」なんて言ってくれたら、私は前のめりで壁に貼ってある「取り放題」の文字に食いついただろう。
下手っぴめ。しかしこんなところでつまづいていたら一生ピコスポットにありつけない。
「この二つだけで」と言い切って除去してもらうことにした。
施術室に移動し、ドクターの女性に代わると再度「他にもたくさんあるけど大丈夫ですか?」と聞かれ「二度とここにはこない」と誓いながら「気になってないので」と強がりをいうことに成功する。
給食のスプーンを二つくっつけたようなゴーグルをして「バツ!」という音とともに私の点が焼ける匂いがした。痛くないと言われていたが私には結構痛かった。
家に帰ると赤く腫れていたところは次第に漆黒のカサブタになり、一気に老け込んだ気がした。
このまま一週間はこの状態が続き、これがポロリと剥がれ落ちてもシミが消えている保証はないらしい。
SNSでたまに見かける「ダウンタイム鬱(美容整形をしたのにきれいになれなかったらどうしようなどと不安になり気持ちが落ち込むこと)」のハイパー軽いものを味わった。
これが鼻や骨を削るような手術だったらどうだろうか、と想像すると震えた。
まずこの情報過多の時代に信頼できるクリニックを探すのは困難だし、手術費を払える財力、痛みに耐える勇気と体力、どれも自分には備わってない。
私は昭和生まれで、思春期のときはまだ「美容整形は悪」みたいな時代だった。その概念の名残があり「できればしないほうがいいもの」という感覚なのだが、そもそもこれは限られた人間しかできないものだと知った。
選択肢として与えられてないのだから「いいこと悪いこと」などと評価するのは分不相応である。
そんなことを考えてた折、本当にちょうど一週間でカサブタが取れた。あの点はすこ〜しだけ薄くなったというがっくしの結果で、私の初めてのピコスポットは幕を閉じた。
これを機にこれから整形してそうな人を見て「わ」と横目で見るのはやめよう。多分そのときの私の顔、整形ではどうにもならないほど歪んでるし。美容整形は「努力」の上にあるものだと知識をアップデート出来ただけでも今回の施術は成功、としておこう。
最後に
美容クリニックとかけまして
好きな人とのメールと解きます。
その心は
どちらも、受診したらすぐ変身(受信したらすぐ返信)したくなっちゃうでしょう。
紺野ぶるま(こんのぶるま)
1986年9月30日生まれ。松竹芸能所属。著書に『下ネタ論』『「中退女子」の生き方 腐った蜜柑が芸人になった話』『特等席とトマトと満月と』がある。
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