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TIMELESSPERSON

2024.08.20

脚本家・生方美久は‟神頼み”を信じるタイプである。

令和の清少納言を目指すべく、独り言のようなエッセイを脚本家・生方美久さんがお届け。生方さんが紡ぐ文章のあたたかさに酔いしれて。【脚本家・生方美久のぽかぽかひとりごと】

いますぐSNSをやめて、神社へ。

@ryouko

朝、足がつって目が覚めたとき。映画館の前の席の人が帽子をかぶっていたとき。道を歩いていたらすれ違う人と鞄がぶつかり、謝る前に舌打ちされたとき。印象操作を目的とした悪質なタイトルのネットニュースが目に入ったとき。撮影現場から、納得のいかない脚本の変更依頼が来たとき。想像以上に印税収入が少なかったとき。想像以上に高い税金を払わなきゃいけないとき。書かなきゃいけないのに、書けないとき。書いたものを、否定されたとき。自分自身を、否定されたとき。特に理由もないけど、涙が出てくるとき。

生きてるとそういうときが幾度となくあって、大体どうしようもない。でも、そういうときに限って、狙ったように、監視されてたかのように、ピンポイントで、「うぶちゃん元気ー?」と連絡してくる友人がいる。地元にいる子なので頻繁には会わないし、ずーっと連絡を取り合ってるわけでもない。なのに、‟なんかあったとき“に必ず連絡がくる。こういうのはきっと、神様が伝言してくれたんだなぁと思うようにしている。

神頼みというものを信じるタイプだ。大事なときに履く靴下とか、大事な日の前日に食べるご飯とか、大事な人の成功を祈るときはお花を買うとか。ちっちゃなやつだけど、大事にしてる。こういうジンクス的なことに限らず、ほんとに神社に行って「神様、頼みます」というガチ神頼みもやる。

最近も、自分ではどうにもできない心配事があり、でもなにもしないのは心配が大きくなる一方で、神様に頼むことにした。その心配事にまつわるご利益がある神社を調べ、参拝した。一週間くらい毎日いろんな神社に行っては、そこにいらっしゃる神様に「こんな猛暑の中、やってきましたよ。このあと、御守りもいただきますよ。見ましたか? お賽銭。結構な額を入れましたよ。だから頼みますよ」という具合で、人間様の立場から神様へ圧をかけてきた。

神様にお願いするしかないようなこと、どうにもできないこと、なんでこうなっちゃったんだろうってこと、なんとかしたいこと。あまりにも多い。ただでさえ、いろんなことをぐるぐると考えてしまう性格だ。気にしいとか、神経質とか、そういうのとはちょっと違う気がしていて、自分で自分を表現するなら「感情ありすぎ」がいちばんしっくりくる。

神頼みを信じるタイプだから、占いも楽しめるタイプ。手相を見てもらったところ、わたしの左手には感情線が二本あるらしい。感情が人の二倍ってことらしい。手相めっちゃ当たるじゃん……。『インサイドヘッド2』を観た。前作より感情たちが増えていて楽しかった。わたしの脳内は、おそらくあのかわいいキャラクターたちが平日朝の山手線くらいぎゅうぎゅうに詰まっている。かわいい。かわいいけど、その脳みそを持って生きるのは、なかなかしんどい。

そういう脳みそを持っているから、ニュースとかSNSとかで簡単に情緒不安定になる。人の立場に立てる、共感できる、相手を想える……なんて言い方をすれば美しいが、わたしはただただ他人の悲しみや苦しみまで異様に吸い取ってしまうだけだ。喜びも吸い取りたい。だから、とりあえずネットニュースを見るのをやめ、SNSも最低限の仕事の宣伝(すらできてないな…ごめんなさい)に留めてみた。なんということでしょう。平日朝の山手線レベルに感情大混雑だった車内(脳内)が、始発くらい空いたのです。

オリンピックのある夏だった。特段スポーツ観戦を楽しむほうではないが、テレビを付けるといろんな情報が飛び込んできた。かっこいいな、勇気もらえるな、苦しかっただろうな、悔しかっただろうな、と、失礼ながら情報番組で結果を知っただけなのに、そんなふうに大きく気持ちが揺さぶられた。どんな結果になった選手も、すでに4年後を見据えていた。明確な目標があるって素晴らしい。彼らを本気で応援してる人たち、楽しみにしている人たちがいる。いいなぁ。スポーツとは全然違うけど、自分の仕事でも、誰かの気持ちを動かせてたら嬉しいなぁ、と思ったりした。

なのに。そんな晴れ晴れとしたポジティブな気持ちでいれたのに。ネットを見たら最悪だった。ルールがあって、勝ち負けがあるスポーツ。なのに、誰のせいとか、何が悪いとか、あの人はアレで、その人はソレで、ほんとだよ、ほんとだよ、そうなんだよ、知らないのって。根拠のない情報や、個人的な悪意に溢れかえっていた。見なきゃよかった。

妄想(モウソウ)の中には「ウソ」があるし、憶測(オクソク)の内側はいつだって「クソ」だ。みんな真実なんてどうだってよくて、とりあえず怒りを向けるサンドバッグがほしいだけ。矛先の数が多いと安心し、矛先の先端が遠いほどありがたい。グッサグサに刺されて血まみれになった生身の人間など、見たくはないから。ネットの在り方なんて絶対変わらない。だったらこっちが逃げたほうがいい。そう思って逃げることにした。いつかのエッセイにも書いた気がするけど、「逃げるというのは、生き延びる方が選ぶということ」という言葉を大切にしている。逃げよう。そんなタイミングで、ある脚本家の先輩もSNSをやめていた。なんだか心強かった。

どうしようもないことばかり。神様にお願いするしか手段のないことばかり。ただ、逃げるという道だけはいつだってある。なんかあったとき、「うぶちゃん元気ー?」と連絡をくれる友人。「ちょっと電話したくて」と言われて、電話して、最近こんなことあってさ、間違っちゃったかもしれなくてさ、不安になってさ、っていう話だった。わたしはふんふんって聞くことしかできない。便乗してこっちの悩み相談を始める始末。でも電話を切るとき、その子は「聞いてくれてありがとう」と言う。「逃げてもいいよね」というところに落ち着いた。ネットの中の人じゃない、生身の人。自分を知ってくれている人。絶妙なタイミングで連絡をくれる人。そういう人がいるから、ネットはいらない。

あのオリンピック選手の傷は、誰が癒してくれるのだろう。あることないこと言われ放題のあのタレントさんが、本当の姿でいれる場所はあるだろうか。考えすぎて、また脳内が山手線になってしまうので、わたしは程よく情報から逃げる。それでも絶対、またなんかある。そのときは友人に「元気-?」って連絡すればいいし、たぶん向こうから来る。神様が伝言してくれてるから。「あいつ‟なんかあった”っぽいから連絡してあげてぇ」って、絶対やってる。いつもありがとうございます! また参拝に伺います! 二礼二拍手一礼どころか、やれって言われただけ礼するし! 拍手もします!……だから、一先ず、この前の神頼みの件、よろしくお願いしますね。

生方美久(うぶかたみく)
1993年、群馬県出身。大学卒業後、医療機関で助産師、看護師として働きながら、2018年春ごろから独学で脚本を執筆。’23年10月期の連続ドラマ「いちばんすきな花」の全話脚本を担当。

TEXT=生方美久

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