韓国で大ヒット記録した映画『ラブリセット 30日後、離婚します』が、いよいよ3月29日に日本での公開を迎える。主演のひとり、カン・ハヌルさんに作品の魅力を緊急インタビュー!
こんなに面白い脚本にはなかなか巡り合えないと思った
韓国では昨秋に公開され、初日から22日間連続で興行収入1位、そして公開からわずか35日で観客動員数が 200万人を超えた本作。まさに、2023年の韓国No.1ラブコメ作品として、多くの人に笑いと幸福感をもたらす一本となった。
インタビューの最初にこの作品への出演を決めた理由を尋ねると、開口一番「脚本の素晴らしさ」を挙げたハヌルさん。
彼が演じるノ・ジョンヨルは、“知的”だが“どんくさい”ところもあるイケメン弁護士。対する妻のホン・ナラは、“大胆で破天荒”な直情型で、職業は映画プロデューサー。『ラブリセット 30日後、離婚します』のタイトルから即わかるように、そんな2人の離婚を巡る大立ち回りが描かれている。
「とにかく脚本自体がすごく興味深かったということが(出演の)決め手になりました。ありきたりではない展開も新鮮で、(脚本を)読んでいるだけで楽しくて。これはなかなか巡り合えない作品だと思いました」
愛し合って結婚したはずの2人は、いつしかいがみ合うようになり…離婚目前。そりゃあ離婚したくもなるよね、という激しい応酬が続く前半は、コメディというよりスリラーのような様相も(!)。ちなみに韓国の離婚法には、家庭法院に協議離婚の意思確認書を申請後、1ヵ月の熟慮期間(子供がいない夫婦の場合)が設けられていて、タイトルの「30日」はその期間のことだ。
ジョンヨルとナラは、そんな協議離婚の申請中に同乗していた乗用車で衝突事故を起こし、何とそろって記憶喪失に! 気持ち的には再び“他人”戻った2人、果たしてどうするのか? どうなるのか?
「この1ヵ月の熟慮期間については当たり前の制度のようにとらえていたので、日本にそういう制度がないと聞いて、逆に“そうなんだ”と知りました。韓国は離婚率が高いんですよ。4割ぐらいかな(編集部調べ:2022年の統計では離婚率48.6%)。なんて話は、ビールを飲みながらのほうがいいですね(笑)」
などと、始終にこやかで、ユーモアを交えた話っぷりが魅力的なハヌルさん。結婚と離婚を題材にしたストーリー、現在34歳で独身の彼にとって“結婚観”に影響は?
「もっと若いときは、自分にとって『結婚』とは、ある意味“ファンタジー”だったので…こういう脚本を読んだら自分ごととして考えられなくて、どういうふうに演じたらいいんだろうと悩んでいたと思います。今は、周りの友達にも結婚した人が増えたから、ちょっと理解も深まってリアルになったし、結婚がそんなに遠い存在ではないというか。そろそろ結婚する年齢になっているんだろうな、と感じましたね」
結婚がリアルになってきたとのことですが、結婚相手に望むことを1つだけ挙げるとしたら何でしょう? あるいは、これだけはダメというNGなことでも。
「いや~、何だか恥ずかしいな(と、大照れなハヌルさん)。周りに人がいるので、喋るのがちょっと恥ずかしくなって(笑)。えっと(と、気を取り直して)、質問を受けて気付いたんですけど、自分の望むこととNGなことはある意味同じなんだなと思いました。 自分の趣味、生活を尊重してくれる人。邪魔してきたり、やめさせようとするのはNGです。互いのライフスタイルを守ることって、大事ですよね」
過去のインタビュー記事で「出会うべき人とは、何があっても出会うものだ」と発言されていましたが、ハヌルさんは“運命”を信じていますか?
「運命論者とまではいかないですけど、生きていたら、会うべき人には会うし、起こるべきことは起こるんだろな——という気持ちが自分のなかにあって。これは恋愛に限ることではなく、他のことも全部含めてそうとらえているので…となると、運命を信じるほうかもしれません!」
今回の作品のなかで、ジョンヨルとナラの力関係というか、肝心な決めのシーンではナラのほうがアドバンテージを握っていました。ハヌルさん自身は、リードするほう? 相手にリードされたいほうですか?
「基本的に、何かを決めるときにあれこれ悩むタイプではないので。やらなきゃいけないと思ったらやって、別にやらなくていいなと思ったらやらない。その都度その都度で判断して行動するので、リードしたい、されたいという感覚はないですね。相手から『やってほしい』と言われたらやるし、いいなっていう提案にはちゃんと賛同します。そういう…ポジティブな姿勢ですね」
なんてフラットな考えなんだーと感激しつつも、ふと仕事に対する姿勢について語ったのかも?と思い、「恋愛においての話ですよね?」と念を押すと「恋愛の話をしています(笑)」とハヌルさん。やはり、素敵な人だ。
演技においては、きちんと計算して準備するタイプ
演じたジョンヨルという役について「似てるところはすごく多いと思う」と分析する。
「カッコ悪くて、くだらないことを韓国語で『「찌질하다(チジラダ)』って言うんですけど、ジョンヨルとホラさんの生活ってチジラダだなって思わせるところがたくさんあって。ジョンヨルのあまり完璧ではなく、足りないところがいろいろあるっていうのも、自分と似てる気がします。…それから、ジョンヨルは掃除が好きで、キレイ好きな一面も描かれていたのですが、そこも似ていますね。違うところは…彼は弁護士なので賢いけど、それは真逆だなって(笑)」
と、オチもつけていただき、ありがとうございます(笑)。ハヌルさんの演技スタイルは、計算して演じるタイプ、あるいは現場での流れに身を任せるタイプ? どんなことを考えて演じていますか?
「僕は完璧に計算して演じるスタイルなんですよ。その役柄に没入する方もいらっしゃると思いますが、自分はたくさんシュミレーションを重ねておいて、その準備があったうえで自由に芝居ができると考えています」
ちなみに、ジョンヨルとナラが交通事故に遭うシーンがとても衝撃的で、どうやってあの映像を撮ったのだろうと気になってしまいました(読者の皆さん、このシーンにぜひ注目してください)。顔を歪ませたりの表情づくりも、いろいろと計算されたのですよね?
「あれは、撮影にかなり時間がかかったシーンですね。事故の前、衝突した乗用車の中でのシーン、事故の後と、全体としては短いシーンになっていますが、あのパートだけで3日間を費やしました。物理的にはすごく大変な撮影だったんですけど、車が衝突する際のスローモーションの撮影はすごく楽しかったですね。スローモーションで『こういうことをやってみたらどう?』『こういうことをやってみたい』と意見を出し合って、いろいろな表情を自分で試しながら進めました。今までにない表現ができたので、とても貴重な経験です」
人を笑わせることはとても難しい。芝居において、泣かせることよりも笑わせることのほうが技術がいると耳にしますが、コメディという世界のなかで何を大切に演じていますか?
「自分は、計算して演じるタイプだとお話ししましたが、そのことと繋がると思うんですけど。作品を通じて観客を笑わせたり泣かせたり、楽しませたりする際に、それは俳優の演技自体も大事だけれど、観客がこの作品に、このキャラクターに“入り込める速度”を理解しなければならないと思うんですよ。つまり、タイミングが一番大事だと思っています。
こういう演技をしましょうとか、こういう演技をしなければということより、作品と観客が一体になれるタイミング。それをこちら側が理解して演じることができれば、自分の役に対しても皆さんがちゃんと集中して観てくれるし、作品に没入して楽しんでもらえる。“計算する”とは、そういう意味合いです」
それは…とても難しいテクニックなのでは…。自分が観客側に立って、作品を観ている気持ちを併せ持って演じるということですよね?
「そのとおりです! まさにそれが僕の演技スタイルなんですよ。今演じているこの芝居は、観客の立場から観るとどういうふうに感じるのかーーそれを常に意識しています。これはちょっと大袈裟なのか、どれぐらい面白いのか、悲しいと感じてもらえているのか…観客側の視点をいつも忘れないように。そういう訓練をしています」
妻のナラを演じたチョン・ソミンさんとは、映画『二十歳』(2015年)以来、久しぶりの共演となりましたが、いかがでしたか?
「とても気持ちのいい再会でした。『二十歳』で共演したときはお互いにまだ若かったので、まだ未熟なところもあっただろうし、情熱だけで役に臨んでいたところがありました。今はちょっと大人になって、いろいろな経験も重ねてきたので。かつては、周りの意図を汲んで演じるような受動的な芝居だったかもしれないけれど、今回は2人とも能動的に動けて、気持ちのいい芝居ができたと思っています。
とにかく彼女のことは大好きですし、さらに尊敬する気持ちが高まりました。一言で言うと“最高”です。あ、二言めもいいですか(笑)。ソミンさんは、とても学ぶべきところの多い相手で、一生ついていきたいなと思う存在の俳優ですね」
この作品が大ヒットした理由は、主演の2人の魅力によるところも大きいと確信できるほど、ハヌルさんとソミンさんの掛け合いは絶妙。脇を固める俳優陣も実力者がそろい、役者自身も楽しんで演じている様子がスクリーンから伝わってくるほど。現場の雰囲気もきっと和気あいあいだったのでは?
「撮影現場は、映画よりも3倍ぐらい楽しかったんですよ。とくにユン・ギョンホさん(ジョンヨルの友人・ギベ役)と一緒のシーンは、周りのみんなも笑い過ぎてNGになってしまい、何度も撮影がストップしてしまったほど。2人のシーンを撮るぞとなったら、みんなが“笑う準備”をするぐらいでした。監督も『2人に任せるから何でも好きにやってください』みたいな感じで。そのうち監督も、指示を出さなければいけないのに、僕とユン・ギョンホさんに加わってしまい、結果、3人で笑いながら楽しんで作り上げていった感じです。
ナム・デジュン監督はものすごくオープンマインドな方で、リラックスして演技させてもらいました。また会いたい、この監督とまた仕事したいなと思っています」
ーー笑いが絶えない現場から生まれたラブコメディ。それだけでもう、いかに楽しい作品なのかがわかるというもの。観客は笑ったり、驚いたり、ドキドキしたり、予定調和的な展開を予測して裏切られたりしながら、この愛すべきキャラクターのジョンヨルとナラの行く末を見守り、ハッピーエンドを期待してしまう。さて、2人の記憶は戻るのか、離婚するのかしないのか…30日後の結末は、どうぞ映画館で!
『ラブリセット 30日後、離婚します』
監督/ナム・デジュン
出演/カン・ハヌル、チョン・ソミンほか
https://www.rakuten-ipcontent.com/lovereset/
※2024年3月29日(金)より丸の内ピカデリーほかにて全国公開
カン・ハヌル
1990年2月21日 韓国釜山出身『La vida』や『スリルミー』など数々のミュージカルの公演を経験し、ミュージカルのアイドルと呼ばれ人気を博す。2014年に韓国で社会現象を呼んだドラマ『ミセン-未生-』では、エリート意識の高いチャン・ベッキ役を演じブレイクを果たす。除隊後の復帰作として、2019年放送のドラマ『椿の花咲く頃』に出演。第56回百想芸術大賞男性最優秀演技賞を受賞した。2022年11月に日本で初のファンミーティングが開催され、2023年4月には2回目のファンミーティングを行うなど、日本でも多くのファンを魅了している。