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TIMELESSPERSON

2024.03.10

嫌よイヤよも…好きの入り口か?やりすぎの行き着くところ【紺野ぶるま】

本当は興味津々なのに、決して踏み出せない――芸人 紺野ぶるまさんの自分観察。【連載「奥歯に女が詰まってる」】

結婚相談所の女

エッセイ イメージ写真

先日テレビで放映された結婚相談所でのドキュメンタリーが話題になっていた。成婚率80%を誇るアドバイザーの先生のもと、身だしなみから会話術まで磨き、異性とデートする様子まで描かれていた。当の先生は結婚歴3回でその出で立ちから幾度も修羅を潜り抜けてきているのが窺えた。

男女どちらに対しても歯に衣着せぬ物言いが印象的で、それがクセになり今ではこの先生のラジオを夜通し聴くほど魅了されているのだが、当初は「言い過ぎ、やりすぎ」と感じたのも事実だった。

カリスマと呼ばれる人というのは、最初は拒否反応が出るほど「強烈」なものだ。

私も数年前に番組のロケでこのような相談所のレッスンに行かせてもらったことがある。それは結婚が目的ではなくシンプルに「愛される女性になろう」という女性限定のものだった。

「おはようございます!」と部屋に入るやいなや「おっっっっはようごっざいま〜す!!」と黒髪ロングのボディコンのような服を着た女性が手をフリフリしながら近づいてきて、目を見開いて出迎えてくれたのだ。

その奥には30代から50代の女性が少し控えめなワンピースを着て目を輝かせてそこにいた。

明らかに「先生みたいになりたい」といった様子だった。

みんなで円になるとレッスンは始まった。

「まずは男性に対して“すごい”と言う練習です。お仕事の話などを聞いたあとに使います。私の後に続いてください…すっっっっっっっご〜〜〜〜〜〜〜い!!!!」

「すっっっっっっっご〜〜〜〜〜〜〜〜い!!!!」

「続いて…さっっっっっっすが〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」

「さっっっっっっすが〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」

みんなと練習をしていると「なんで?」「いつ?誰に? これを誰が喜ぶんだろう?」と言う疑問が止まらなかったが、

「紺野さん、もっと“っっっっっっ”の時に膝を曲げて〜!」

と指摘され諦めた。きっと最後に「ドッキリ大成功」とか「これはテレビ用です」と言ってくれるはずだと番組を信じることにした。

「次はパスタを食べる練習です。ここは最高にセクシーにみせれるチャンスです」

そう言うと先生はフォークに絡めたパスタを頭よりも高く掲げた。そのままお口をアングリして不敵な笑みを浮かべ髪をかき上げ続けた。

「早く食べてください」

気付くと口が勝手にそう動いていた。

だが先生は瞬き一つせずに、麺で出来た暖簾越しに私を見つめ続けた。

結局何も掴めず、特にネタバラシのようなものもなくスタジオをあとにした。オンエアの様子が気になり動画を探すがどこにも落ちていない。「何だったんだろう? 絶対あの人たちやりすぎだったよな」と怖くなったが、参加女性のひとりが「夫が最近冷たくて女性としての自信を取り戻しにきました」とシリアスに話していた姿を思い出して、確かにあの場所は存在していたのだと再確認する。

ここ数年、事実、あれくらいやりすぎくらいがちょうどいいのかもと思うようにもなった。

いろんな猛者にあったからだ。その代表が事務所の先輩の「クロちゃん」である。

「クロちゃんさん」と呼ばれると「あ〜〜ん、アグネスチャンさんみたいに言わないで」

「おじさん」といじられると「あ〜〜ん、親から見たらいつまでも子供バーブー」

いつでもどこでも、芸能人だろうが道ゆく人だろうがこれを全力で、少し膝を曲げて言うのだ。

好みのギャルをみつけると「大好き〜!」延々アピールし、喜怒哀楽惜しみなくテレビで出し続ける。

その奇抜さを緩和させるようにクロちゃんはものすごくマメである。お正月やクリスマスには必ずLINEで自撮りの写真が0時ぴったりに送られてくる。

後輩の私にくれるということは、何百人といる知り合い全員に送っているのだと思う。

そんなクロちゃんの人気は言わずもがなで、SNSはもちろん営業に一緒に行ったときなんて登場するやいなや歓声を浴びていた。

その秘訣を本人に聞いてみると

「え〜わかんな〜い。オレは(ちなみにカフェオレのオレの発音)才能もないし能力もないことを自覚してるから、自分にできることすべて全力でやってるだけだしんー!」

“できることを全力でやってるだけ”

もう一度あの暖簾パスタを思い出すと、まったく違う印象を抱いた。そしてあの帰り際「今日はありがとうございました」と挨拶をした際、先生のお辞儀が誰よりも深かった記憶が蘇ったのだった。

最後に

カリスマとかけまして

パクチーと解きます。

その心はどちらも

最初嫌がる人ほど、ハマるものでしょう。


今日も女たちに幸せが訪れますように。

TEXT=紺野ぶるま

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