伝えたい想いがあるとき、人は手紙を書きたくなる。女優の山口乃々華さんが、“あのひと”に向けて今の気持ちをしたためる連載。今回は、日々の暮らしのなかでふと気づく“あること”についての考察。【連載「〒ののポスト」】
いつの間にかさんへ
気にしているようで気にできていなかったのですね。 いや、気にしてもいなかったことにあとから気が付いているだけかもしれません。"いつの間にか"というのは、生活のなかで絶対に変化があったはずの“何か”を見落とし続けた結果なのでしょう。
私はこの頃いくつ、"いつの間にか"忘れていたり、過ぎてしまった出来事があったのか、と考えています。言い訳になりますが、全部を気にしていたら私、あちこちに振り回されてしまいそうです。
例えば、加湿器の水は朝起きれば空っぽになっているけれど、水の減り具合を考えていたら夜ぐっすり眠れません。だから考えずに寝ます。すると朝方、空気が乾燥しています。しかし私は加湿器を買い替える気はありません。
気にしなくてはならないこと、気にしている余裕がないこと、気にも留めないこと…考え出すともうキリがないんじゃないか?と思います。 私のなかに"いつの間にか"に分類されてしまったあれやこれには申し訳ないけれど、どうでもいいこともたくさん混ざっていると思うのです。今はその選別がうまくできない時期なのです。知らんぷりさせてください。
しかし、いい映画を観たあとの私といったら、すべての感覚を大切にしながら生活したいなぁなんて思うのです。朝の青い光を浴びながら目覚めるありがたみを感じたいし、着る服はウキウキ気分で選びたい。カラカラになった加湿器だって、キレイに洗ってからまたすぐに水を入れてあげたい。そして、いい香りだなぁと癒やされながらコーヒーだって飲みたいのです。
しかし、数日後の私になると、もう朝かよ!と起きることを億劫に思うし、着る服はラクを優先させたものがいいし、加湿器はまたあとでいいやと空っぽなまま。コーヒーも熱!と思って冷ましていたら、美味しくなくなって大体最後まで飲みきれずに家を出ることになります。
いつの間にかさんは、私のキレイごとをあっという間に現実に引き戻していきますね。それでもまた少し時間ができて、いい映画を観たりすると、いけない、いけない、と日々の小さなことたちを大切に拾い上げたくなるのです。そんな繰り返しの日々ではありますが、もしかしたら今は、いつの間にか…を気にしているよりも、もっと他にやるべきこと、やりたいことがある、お仕事へ全力で時間と体力を費やしてみるべきだよな、とも思います。
さて、その先にどんなことが待っているかはわかりませんが、いつの間にかさんが「ほら! そんなもんなんてことなかったでしょ! 大丈夫!」と未来で言ってくれるのを信じています。
山口乃々華より
山口乃々華(やまぐちののか)
3月8日生まれ、埼玉県出身。2020年末まで E-girlsとしての活動を経て、2021年から女優として本格的に活動を開始。 映画『イタズラなKiss THE MOVIE』シリーズ、ドラマ・映画「HiGH & LOW」シリーズやHulu版「崖っぷちホテル!」などに出演、『私がモテてどうすんだ』ではヒロイン役を務めた。近年ではミュージカルにも活動の幅を広げ、2022年には「SERI〜ひとつのいのち」でミュージカル初主演を務め、2023年は「SPY×FAMILY」ではフィオナ・フロスト役、a new musical「ヴァグラント」ではヒロイン(W)役を好演。12月15日~上演する舞台「呪術廻戦」-京都姉妹校交流会・起首雷同-では、釘崎野薔薇役を務める。
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