池松壮亮さんと宮藤官九郎さんが初めてタッグを組んだ。長い撮影のなかでともに暮らし、笑い合って作品を作り上げたふたり。その制作の日々を共演した猫のトラと一緒に語る。
笑いで紡ぐ物語
――宮藤官九郎さんが企画・監督・脚本を務めるドラマ「季節のない街」。仮設住宅に12年住み続ける人々の営みを優しく、時に切なく、笑いを織り交ぜて描いていく。その主演で、仮設の街に猫のトラとともに引っ越してくる主人公・半助こと田中新助を演じたのが池松壮亮さん。池松さんいわく、宮藤監督の笑い声が印象的な撮影現場だったそう。
池松 宮藤さんはみんなのお芝居を見てゲラゲラ笑ってくれるんです。その笑い声にキャストもスタッフもすごく引っ張られました。
宮藤 そうですね、笑ってました。だって、役者さんたちがみんな面白いから。
池松 宮藤さんの監督回じゃないときは、笑い声がいつものようにないので「あれ? ハマっていたの、もしかして宮藤さんだけだった?」ってちょっと現場が不安になるほどでした(笑)。
宮藤 すいません。今回贅沢にも街のオープンセットを茨城県の行方(なめがた)市に造ってもらって、2ヵ月半、ほぼ東京に戻らず撮影しました。ホテルのそばにスーパー銭湯があって、撮影が終わってお風呂に行くと、池松くんとか荒川良々くんとか、必ず誰かが湯につかってましたね。
池松 宮藤さんと僕のホテルの部屋が向かいで、同じタイミングでドアを開けて出てきて、お互いにびっくりしたこともありました。本当にあの期間、同じ街の住人としてみんなで暮らしているようでした。
――クスクス笑ったり、大笑いしたり…そんなシーンがあったかと思えば、一転してシリアスな場面も。そのギャップは制作するうえでどう意識したのだろう。
宮藤 第2話がとても切ない物語で、こんな悲しいシーンを書いてしまって、果たして3話以降、笑えるだろうか、と悩んだりしました。でも人生って、そういうものですよね、悲しいこともおかしいこともあって続いていく。どんなに悲しくて泣いていても、友達が「白菜余ったんだけど」って持ってきて、一緒に鍋食っているうちに笑っていたり。だからそれでいいと。撮影に入った後は、もう迷いはありませんでした。
池松 当然演じるうえで役の気分を体感していくので、シーンによって気持ちの上がり下がりはありました。でもあの街では、住人それぞれの悲劇と傷みがあるけれど、ほかの誰かの呼吸によってそっと繋ぎとめられる、そんな営みがあるんです。だから誰かの悲しいシーンのとき、その裏で他の誰かがいかに普通の日常を過ごしているのか、そういった街のバランスを保ちながら明日が続いていく日常が、とても居心地が良かったです。
宮藤 テレビの連続ドラマの構造に僕は慣れているので、どんなに悲しいことがあっても1週空く、来週になればまた笑えるよなって思っちゃうんです。観客にも1週間それぞれの生活があって、またその時間になったら観るわけだから、先週泣いていても今週は笑えるだろと。でもまぁこれ、配信ドラマだから、みんな一気に観るのか~!ってあとで気が付きましたけど(笑)。
池松 本当にこんなに笑って過ごす現場って僕にとってはなかなかないです。都心から離れて、オープンセットの街で、日が昇って沈んで、一緒に星を見て、また明日…という生活は今になってなおさら贅沢な日々だったと感じます。みんなであの街を体感できて、作品も深まっていったのだと思います。
ドラマ「季節のない街」
原作/山本周五郎
企画・監督・脚本/宮藤官九郎
監督/横浜聡子、渡辺直樹
出演/池松壮亮、仲野太賀、渡辺大知ほか
※ディズニープラス「スター」で8月9日(水)より全10話一挙独占配信
https://disneyplus.disney.co.jp/program/kisetsunonaimachi
池松壮亮(いけまつそうすけ)
1990年7月9日生まれ、福岡県出身。2003年『ラストサムライ』で映画デビュー。『夜空はいつでも最高密度の青色だ』『宮本から君へ』『ちょっと思い出しただけ』『シン・仮面ライダー』などに出演。公開待機作に『白鍵と黒鍵の間に』『愛にイナズマ』がある。
宮藤官九郎(くどうかんくろう)
1970年7月19日生まれ、宮城県出身。大河ドラマ「いだてん〜東京オリムピック噺〜」など数々のヒットドラマの脚本を手がける。最近の脚本作に、大石静と共同脚本を手がけた「離婚しようよ」(Netflix)、映画『1秒先の彼』などがある。