ひとり旅は自分をリセットさせてくれるかけがえのない時間。これまでの旅の経験から、考えたことや感じたこと、学んできたことを綴る連載『ひとり旅×松本まりか=THINK CLEARLY』。
日常に戻り、スリランカの旅は自分にとってどういうものだったのだろうと時々考えます。日々の忙しなさから解放され、自分と向き合った数週間。大きな気付きがあったことは間違いないのですが、言葉にするには、もう少し時間が欲しいです。「お休みをいただいて、人生変わりました!」とか「私の第2ステージがこれから始まります」というようなことを言えたらいいのかもしれないけれど(笑)、言葉にした途端、浅いところにおさまってしまいそうで。もう少し、このテーマは寝かせたいです。
旅の間、「何もしなくても、ただそこにいるだけで幸福」と感じるような瞬間を何度か経験しました。ああいう思いを普段の生活のなかでも味わえたら。その「瞬間」を少しでも長く続けられるようにするのが課題かなと思います。
休んだから、インプットに向かえた
先日、少しまとまってお休みがとれることになって、弾丸旅行でスリランカを再訪することも考えたのですが、結局は映画館に通い続けました。5日間で15本、毎日3本立てです(笑)。スリランカで自分をいったんゼロの状態にしたら、無性にインプットをしたくなったのです。
『オードリー・ヘプバーン』『FLEE フリー』『わたし達はおとな』『ショーシャンクの空に』『マイスモールランド』『ベイビー・ブローカー』『PLAN75』『カモン カモン』『三姉妹』等々。
渋谷で観たあとに有楽町に移動し、新宿に戻るなど、お目当ての作品を期間内にクリアするのは至難の業。スケジュールを組み立てる作業も楽しかったです。
私はデビューしたての15歳のころに『ダンサー・イン・ザ・ダーク』のビョークの演技を観て、「ここまで演じられる人になりたい!」と思いました。でも私は、映画から求められることは少なくて……。憧れが強かったぶん、長い間映画を観ることができませんでした。
ここ数年は物理的に映画館に行く時間がとれなかったのですが、久々に映画漬けの日々を過ごし、改めて映画は素晴らしいものだなと思いました。旅をするのと同じ。知らない世界や知らない文化に出会えます。『教育と愛国』では、ぼんやりとしか知らなかった教科書問題、公共教育の重要性に衝撃を受けました。そのあとに韓国の済州島4・3事件に触れた『スープとイデオロギー』、朝鮮戦争の戦争孤児を描く『ポーランドに行った子供たち』を観て、日韓の戦争の捉え方や伝え方の違いを知りました。経験や知識が増えていくと、映画の見方も深まります。
ホン・サンス監督の『イントロダクション』と『あなたの顔の前に』も観ました。観客の想像力を刺激するような作品が今はすごく楽しいです。私も演じるときには、余白のある、お客さんの想像が膨らむようなお芝居をしたいです。
今、公開中の映画『ぜんぶ、ボクのせい』では、子供を虐待する母親を演じました。実際には親になったこともないのに、役を通して、さまざまな人生を擬似体験させてもらっています。どの人生も、ひとつひとつ大切に生きたいなと改めて思います。
Marika’s Memories/私の友であり師
松本まりか(まつもとまりか)
女優。ドラマ『ホリデイラブ』の井筒里奈役で一躍注目を集める。映画『ぜんぶ、ボクのせい』が公開中。映画『夜、鳥たちが啼く』が12月9日公開予定。2023年に放送予定の大河ドラマ『どうする家康』に出演予定。