女優、モデル、さらには執筆家という顔も持ち、芸能界でも屈指の本好きと評判の佐久間由衣さん。「趣味は読書、好きな小説家は太宰治」と語る彼女と本の素敵な関係性とは?
読書好きになったきっかけは太宰治
子供のころから読書が好きだったわけではなく、大人になって本の世界にのめり込むようになりました。初めて読んだ活字書籍は、18歳のときに映画を見てから読んだ、太宰治の『パンドラの匣』。学生時代によく家族に読書を勧められていたのですが、ほとんど手にとることはなくて。この作品はなぜだか書店で引き寄せられるように手に取り、気付けば読破していました。当時の私は怖いもの知らずというか、人の話に耳を貸すこともなく、自分のやりたいように過ごしていましたが、あんまり人には言えない自分の心のなかの苦い部分は誰にも共有できずにいました。この作品には人間の心の中のそういった部分が細かく描かれていて、「こういう気持ちになるのは自分だけじゃなかったんだ」という感情に出合ってしまったんです。そこに共感してしまって、太宰治の沼にどハマり。小説は単にポジティブであたたかいものだけではないと、新たな価値観を突きつけられるような感覚でした。
読んでいない本がいっぱいあるということは、これからいくらでも読めるということ。そう思うと、知らないってめちゃくちゃ幸せなことだなって、書店で本に囲まれてワクワクしたことを今でも覚えています。読書って、簡単に自分の現実とはまったく違う世界に行けて、違う人の人生を覗き見ることができるもの。それってすごく贅沢なことで私にとっては喜びに近いです。
言葉にできない感情がちりばめられた作品が好き
普段よく読むのは、純文学。太宰治や好きな作家は中村文則さん、西加奈子さん、川上未映子さん、辻村深月さんら。温かいものからシリアスなものまで、テイストはさまざま。自分のなかにもあるはずなのに言葉にできないという感情を言葉にできて、小説のなかにちりばめられているような作品が好きなんだと思います。
特にうっとりとしてしまうのが、中村文則さんの作品。基本的に中村文則さんの小説は、圧倒的な「陰」。中村さんは小説内で宗教の負の面や犯罪などについて書かれていることが多くて、事件を起こした人物の目線では世界がまた違って見えているのかと、ドキュメンタリー感覚で読んでいます。中村さんの作品にはきれいごとがないし、人間の泥臭いところを容赦なく吐き出している感じが、私にとっては気持ちいい。読んでいて心が引っ張られてしまうこともあるけれど、そういった体験も本ならでは。そのほかにも、エッセイや料理本など気になったものは読むようにしています。あとは、映像作品と先に出合い、原作を手に取るということもあります。映画を観ているときにふいに文学の匂いを感じたら、どんな原作なのだろうと読書欲が止まらなくなることも。
●佐久間由衣流 書店での本の選び方
書店に行って本を選ぶ時間は、私にとって至福のひととき。紙の本のアナログ感が好きで、私は物として本そのものが好きなんだと思います。ページをめくる感覚が好きだし、本の匂いも好き。書店に行ってまずチェックするのは、新作やおすすめ作品の並ぶ棚。お店によって推している本が全然違うので、それを知るのも面白い。好きな作家さんの新作はもちろん、棚を眺めてタイトルや装丁から面白そうだなと思うものを手に取ることも。本との出合いは直感的なものを大切にしています。
佐久間由衣(さくまゆい)
1995年3月10日生まれ、神奈川県出身。2014年に女優デビュー。’21年はフジテレビ系ドラマ「彼女はキレイだった」や、TBS系ドラマ「最愛」など話題作に次々と出演。自身初の写真集『佐久間由衣写真集 SONNET 奥山由之撮影』が発売中。