日本が誇るロックンローラー・布袋寅泰さん。活動41年目を迎え、なんと今年60歳になったそう。力強くて、ジェントルマンな布袋さんの、お仕事のスタイルと生き方を伺いました。
“大人のロック”を日本に根づかせたい
昨年、活動40周年を迎えたギタリスト布袋寅泰さん。パラリンピック開会式やNHK紅白歌合戦でのパフォーマンスも印象的だった布袋さんは、2月1日の誕生日にデビューから通算20枚目のアルバムをリリースしました。60歳になったとは信じられないパワフルな布袋さんの、今回のアルバムのテーマはずばり「夢」。
「夢を語るには現実が重苦しい時代です。でもだからこそ夢というキーワードが必要なのです。僕は40周年を迎えましたけど、今も10代のころのように夢を追いかけています。夢という言葉は常に力になってくれる。それを多くの世代の方に伝えたい、それがこのアルバムのコンセプトなんですよ。昨年のパラリンピックの開会式での経験も、やはりこのテーマにいきつくうえでは大きなものでした。パラアスリート、パラアーティストたちはハンデだと思われているものをプラスにして、とても前向きに生きている。彼らと会い目が覚めるようでしたよ。そこから夢という言葉にたどり着きました」
デジタルで作られる音楽が主流になるなか、あえてバンドスタイルにこだわったそう。
「この作品ではバンドの音に回帰したかったんです。それにやっぱり人とのコミュニケーションから生まれるものが、僕の場合はイマジネーションを増幅させてくれます。前作はコロナ禍でスタジオにも入れずひとり自宅で作りました。それも勉強になったし、今回ももちろん制作に制限もあった。けれど今作は原点回帰をしてみようと。曲作りも僕が生まれた街、群馬県高崎のスタジオに3日間こもって、ひと筆書きのように書いたんです。故郷で制作することで、今までとは違った曲の風景が浮かんできましたね」
人とのコミュニケーションのなかで、ものを作るのが好きだという布袋さん。制作の現場では、相手が心地よくいてくれるかを常に大事にしているそう。
「相手が受け取れないような球を投げると、自分に返ってこない。相手にとって心地よいものを投げかけて、返ってきたものをお互いの好奇心で膨らませながら作っていく。それが僕のスタイルです。僕自身は根っからのプロデューサー気質があるのかもしれません。自分自身をプロデュースするのは難しいけれど、人のことを考えるのは好きですね」
60歳、若いころから変化したものを伺うと。
「若い世代から見たら、僕はもうベテランに見えるかもしれない。でもね、自分でもびっくりするほど、20代、30代のころと気持ちが変わらないんですよ。ふといいフレーズが浮かぶと飛び上がるほどにうれしいし。確かに年を重ねていい意味でまろやかになったかもしれない。ロックっていったら大音量で荒々しい、そういうものに思われるかもしれないけど、40年やって本当に幅広い世代の方に聴いてもらえるようになったんですよ。僕より先輩の方から、そのお子さん、そしてお孫さんまで。
角がとれたと言うと、何かを捨てたように思われるかもしれないけれど、転がっていくうちに角はとれていくもの。広い世代に聴いていただけることがうれしいですよね。子育てを終えて、大人になってからゆっくりロックを楽しむ、そういう文化は欧米にはありますが、日本でも大人のロックを作っていきたいです。大人も若い人と一緒に楽しめる、そういうアーティストにこれからはなりたいですね」
そんな今の夢を語る布袋さんは10年前、「夢を追うため」イギリス移住を決めました。50歳で下したその決断は今振り返るとどんなものだったのでしょうか。今後の目標とともに伺いました。
「40、50代も冒険するにはまだ遅くない。夢を届ける仕事をしている人間が、夢をあきらめてはいけない。あの決断があったから、人としてアーティストとして生き生きとしていられると思っています。これからの具体的な夢はワールドツアーかな。大丈夫、きっと世界は現状を乗り越えられるよ。だからそう遠くない未来に、実現できると思います」
布袋寅泰(ほていともやす)
1962年2月1日生まれ、群馬県出身。ʼ81年にBOØWYでデビュー。解散後はソロ活動に加えてCOMPLEXでʼ90年まで活動。2014年にザ・ローリング・ストーンズの公演に参加。世界を股にかけて活躍する。
『Still Dreamin’』(ユニバーサル ミュージック/通常盤¥3,300)
通算20枚目のオリジナルアルバム。ジャケットは、デヴィド・ボウイのポートレイトを撮影した写真家・鋤田正義が担当。
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