親からのネグレクトで小学校にも行けない少年。飢えに耐えられずコンビニで廃棄の弁当をもらえないかと乞う――。最新作『砂に埋もれる犬』で、少年を取り囲む壮絶な環境を描いた作家・桐野夏生さん。作品への想いを聞いた。
女性はみんな、自分を大事にすることを一番に考えてほしい
「私は小説を書くとき、タイトルを最初に決めます。今回はゴヤの『砂に埋もれる犬』という絵を見て、もがく少年の姿がすぐに浮かび、これだ、と思いました」
桐野さんは2018年に、ネグレクトの果てに大人たちに性的に搾取される女子高生を描いた『路上のX』を発表。その際に「では男の子はどうなるのか」と考え今作の執筆にいたった。少年犯罪を扱うジャーナリストに話を聞き、その子たちの母親へ思いを馳せた。
「ネグレクトと口で言うのは簡単ですが、いったいどんなものなのか、想像しながら書いていたら、これは母親の物語でもあると気が付きました。少年が蟻地獄のように砂に埋もれていく、その原因、つまりその砂とは母親の生きた環境なんですよ」
読み進めていくうちに、もしかしたら誰もが、ネグレクト、虐待を繰り返す母親のようになってしまうのではないか、とおそろしく感じる。
「女の人はみんなそう感じると思います。子育ては女の人にだけ課されるべきものではありません。しかし実際は女性の責任を問われることが多いですから。GINGER読者のなかには、これからお子さんを産む方もいらっしゃるでしょう。子供にとって何が一番いいのかと考えると同時に、自分を大事にすることを考えてください。子育て中なら、自分の時間を、誰かに協力してもらってでも作るべきです。スマホをぼーっと眺めるだけだって救われることもある。お母さんが幸せでないと子供も幸せでないですから。でも実は、自分を大事にすることが一番難しいことなんですけどね」
『砂に埋もれる犬』桐野夏生 著 ¥2,200/朝日新聞出版
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桐野夏生(きりのなつお)
1951年10月7日生まれ、石川県出身。’93年『顔に降りかかる雨』で江戸川乱歩賞受賞。以後『OUT』『東京島』『とめどなく囁く』など話題作を数々発表。2021年早稲田大学坪内逍遙大賞を受賞。