ひとり旅は自分をリセットさせてくれるかけがえのない時間。これまでの旅の経験から、考えたことや感じたこと、学んできたことを綴る連載『ひとり旅×松本まりか=THINK CLEARLY』。
外国を訪れたときに、まず戸惑うのはモノの値段の違いなんじゃないでしょうか。
コーヒー一杯の値段の高さに驚くこともあれば、こんな値段でこんなに素敵な部屋に泊まれるの? と驚くほどリーズナブルな宿に巡り合うこともあります。
日本では、モノにもサービスにもたいてい値段がついています。提示された金額をそのまま支払えばいいのですから気が楽です。けれども、海外では商品に値札がついていなかったり、交渉によって値を決める文化が深く根付いている国もあります。その場合、観光地では、観光客向けに普通よりも少し上乗せした金額を設定していることがありますから要注意です(笑)。
私はまず、その土地に住む方々と同じ金銭感覚をつかむようにします。地元の方が通うようなスーパーや屋台を見てまわり、相場をチェックするのです。
コミュニケーションのきっかけに、値切ってみる
値段交渉は苦手という人もいます。でも、私はそれを楽しんでしまうタイプ。地元の相場から比べても、「明らかに高くしているな」と思ったときには、さあ交渉開始です!
たとえばインドでトゥクトゥクに乗るとき。まず、乗る前に目的地までの値段を運転手さんに尋ねます。「〇〇ルピーだよ」相場より高い値段を言われたら、「NO NO! それじゃ乗らない。〇〇ルピーはどう?」と相手がちょっとびっくりするくらい安い金額を言ってみます。ここで大事なのはユーモア。冗談めかして、満面の笑みで言います。
あからさまに驚く運転手さんもいれば、「しょうがないねえ」と笑いながらあっさり言い値で乗せてくれる運転手さんもいます。相手の出方次第で、私ももうひと押ししてみたり、ちょっと譲ってみたり。
もちろん、旅行費用を少しでもおさえたいという気持ちはあります。でも、それよりも私にとって値段交渉は、きっかけづくり。現地の人とのコミュニケーションを堪能したいのです。言葉も違う、初めて会った人といきなり人生観を語ることはできません。でも、屋台や乗り物や蚤の市などで、ゲームのように値段交渉をしてみると、とても人間味のあふれる交流が始まります。
つまり、一店員vs一客、のマニュアル通りの対応では交渉は成立しません。その人らしさ、キャラクターを全開にして一個人対一個人としてやりとりしないと面白くならない。店員さんや運転手さんの人となりが垣間見られることが、私が楽しいと思う最大のポイントなのです。
とても値切りそうに見えない日本人観光客が、びっくりするほどの安値を明るく笑顔でしれっと言い出す。思わず吹き出してしまうような空気になるのです。そうすると「面白いことを言い出す娘だなあ」とぐっと距離が縮まり、そこからお友達になります。この押し引きの絶妙な呼吸は、もしかしたら気持ちを伝えるレッスン、演技の練習のようなことを私は無意識にしていたのかもしれません。
ちなみに、国内でも「これは値段がないな」と思うようなときには、ときどき値段交渉をしてみます。そうやって人との交流を楽しみたい。コンコンと相手の心にノックをしてみると、意外にも扉を開けてもらえます。そして新たなハッピーな関係がそこから始まります。
Marika’s Memories/旅の記録
松本まりか(まつもとまりか)
女優。ドラマ『ホリデイラブ』の井筒里奈役で一躍注目を集める。2020年は『竜の道 二つの顔の復讐者』『妖怪シェアハウス』『先生を消す方程式。』『教場Ⅱ』など8本のドラマに出演。9月11日から配信されるParaviオリジナルドラマ『東京、愛だの、恋だの』、そして10月から放送される『それでも愛を誓いますか?』それぞれの主演を務める。
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