日ごろから“言葉”についてあれこれと思いを巡らせている壇蜜さんの連載『今更言葉で、イマをサラッと』第43回目。言葉選びと言葉遣いが、深く、楽しくなる。そして役に立つお話。どうぞお楽しみください!
その43『つまり』
とどのつまり。とど、というのは魚のボラを意味する。ボラの卵巣を加工したものをカラスミというので、カラスミと聞けばピンとくるだろう。ボラはいわゆる出世魚。ボラの次の段階が「とど」だ。とどのつまりは「とどになってその先がない」、という表現で使われ、ネガティブな事柄を伝える場合が多い。「とどのつまり、我々の仕事はいい評価をいただいたということだ」とは言わない。「とどのつまり、我々の仕事はあまり良い評価にはつながらなかったようだ」という場合に使われる言葉なのだ。
近年の水質悪化によりボラの味は落ちたというイメージが濃厚だが、昔はマダイと並ぶような高級魚で、味も縁起も良きモノとしてもてはやされていた。今でも水質が良いところでは甘みのあるタンパクな魚として知られている割には、言葉に用いられるときはずいぶんな扱いである。カラスミなんていつでも高価な珍味だというのに理不尽な。
とどのつまりを短縮し、使い勝手を良くした言葉が「つまり」だと考えていい。つまり、は様々なシチュエーションで話を要約したり結論に近づけたいときなどに使う。つまり、~ってこと?と話をまとめて相手にパスできるため、便利な言葉ではある。しかし、相手から発せられる「つまり…」が何となく的を射ていないなぁと思うときはないだろうか。私は正直にいうと時々ある。
インタビューを受けていて、「つまり、~だというお考えでしょうか」「つまりは~ってことですね」などと言われて、何だか違うなと思ったときはどうするか。「いや、違います」と完全には否定しない方がいい。不穏な空気になるのはゴメンだ。もし言われて、全く見当違いではないがちょっと違う…と感じたら、私は「あー、それもあります。ありますが~という気持ちの方が強いですね」と肯定半分否定ちょっとからの正解発表で会話を締めるようにしている。すると相手はああ、なるほど~と否定したときよりも前向きに耳を傾けてくれるような気がするからだ。ちなみに見当違いの意見を言われたら、「それは自分のなかに無かったですね…ちょっと目からウロコです。私の気持ちとしては…」とつなげている。
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