“大人のフリ”して放置(我慢したり、見て見ぬふりしたり)せず、煩わしい人間関係をぶった斬り、好きな人たちとだけ生きていく——。そんな“自分基準”を掲げて、人生を楽しく、生きやすくしていきませんか?
脚本家 岸本鮎佳さんの連載「私、幸せになるんで。はい、サヨウナラ」。あなたの人間関係やモノ付き合いの整理整頓&取捨選択に際し、ぜひご参考に!(編集部)
vol.10「声の小さい男はやめとけ」
自信のない男を一瞬で見抜く方法。
それは、声が小さすぎる男。
顔に性格が出るとは、よく言うが声にも性格が出る。と私は思ってる。
顔だけ見て、「いいじゃん」と思っていても、実際に会った時、声が異常に小さな男がいた。
私は声が低く、通る方なので(舞台仕込み)一緒にいても、聞き返されることはほとんどない。
だからこそ尚更、声の小さな男が理解できなかった。
顔はイケメン。でも、喋ると常に蚊の鳴くような声で、私は2時間の食事の席で500回は「え?」というセリフを発したと思う。
初めはさほど気にならなかった。
でも10分ほど経ち、「え?」の回数が10回を超えたくらいで、会話するのに疲れている自分がいた。
沈黙の後・・・
声の小さい男「・・・りますか?」
私「え?」
声の小さい男「趣味とかありますか?」
私「あーぁ、趣味」
沈黙の後に絞り出した質問が、絶望的につまらない。
私は今日、何とか、何とかしてこの男に、自分の声が小さすぎるということを、伝えなければ!という謎の使命感に駆られた。
私「・・・ナですね」
私も同じくらいの小さい声の女を演じることにしたのだ。(今更)
声の小さな男「え?」
私「サウナですね」
声の小さな男「あぁ!サウナですか」
私「そうそう」
ほら! これだよ! どう? お前の声はこれくらい小さいんだぞ?
声の小さな男「じゃ・・・りますか?」
私「・・・」
さらに小さな声で返ってきたけれど、「え?」と聞き返すのに疲れた私は、そのまま想像で会話を続けた。
その後も私は小さな声でしゃべり続け、彼は安定の小さな声で喋り続けた。
彼の真似をしていて気付いたことが1つある。
それは、「自分の自信あることをしゃべるとき、人は自然と声が大きくなる」ということ。
そのことを、相手に伝えたい!という強い思いがあれば、声は自然と大きくなるはずなのだ。
だとしたら、彼は私に伝えたいことなどないのだということ。
そして、自分の喋ってることに自信がないのだということ。
私はふと、考えた。
山で遭難したときに「助けて!」と、こいつはどれくらいのボリュームで言えるのか。
私はこの男の声では、絶対に助からないと思った。
普段から声帯を使ってない男は、いざというときも大きな声が出せるはずがない。
声の小さな男には、気を付けたほうがいい。
それは、時に命の危険をも感じるから。
彼がいつか、大きな声を出せるほどの喜びを見つけることができますように。
私は山で遭難することは、絶対に嫌なので・・・
声の小さい男・・・
はい、サヨウナラ。
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