日ごろから“言葉”についてあれこれと思いを巡らせている壇蜜さんの連載『今更言葉で、イマをサラッと』第5回目。言葉選びと言葉遣いが、深く、楽しくなる。そして役に立つお話。どうぞお楽しみください！
その5『目を通してください』
丁寧に楽屋に通してもらい、敬語に満ちた自己紹介を受け、細やかな今後の予定を説明され…「私なんかがこんな扱いを受けていいんでしょうかねぇ･･･」と思いながらもその場の環境に身を置いている。こんな調子なので、「あの言葉」を添えられながら進行表や台本などを受け取っても違和感は感じにくかった。
これが私の中で今ひそかに盛り上がっている「目を通してください問題」だ。
どんなに丁寧な扱いを受けていても、「今から渡すものを読んでおいてください」という意思を伝えたいとき、彼らは必ずといっていいほど「こちら台本（もしくは進行表）です。目を通してください」と言う。何故か言う。どうしても言う。「あ、これ台本です･･･えっとー、ご一瞥ください」などという、ビックリするような言い方をしてくる若い男もいたが。もてなしながらも「ちゃんとやれよ」という釘さしも忘れないギブアンドテイクの雰囲気が出ていて、Mっ気のある私にはちょっと痺れたが、言葉遣いに厳しい目上の方が相手なら彼の間違いは命取りだろう。一瞥とは、現代風に言えば「チラ見しといてね」という意味なのだから。
｢目を通す」はざっくり読む、全体的にさらっと読んで把握する･･･という意味がある。当然、目上の方に「ざっと読んでおいてください」などとは言えないので使えない。「目を通してください」もただ丁寧に聞こえているだけで意味は同じなので、使用を遠慮した方が賢明だ。後輩や部下には「目を通しておいてね」と言うのはありだろう。「ざっくり見ておいて」よりも念押ししている感じは出る。
では、この問題をどうすればいいのか。根本的解決までにはもう少し時間がかかりそうだが、「こう言っておけば失礼ではない」という正解例を一人一人が知っておくだけでも今はいいのではないかと思う。「ご覧ください」「ご一読ください」「ご確認くださいませ」、これらを覚え使うことで丁寧さは保たれる。オールマイティーな傾向の強い「ご覧ください」、ちょっと長い文や手紙などにも使える「ご一読ください」、チェックして欲しいときの「ご確認くださいませ」（「ませ」で丁寧さアップ）･･･目を通してください問題を斬る三銃士として、お納めいただきたい。
