SNSから始まる国際恋愛を描いた、日本と台湾の共同制作映画『ママは日本へ嫁に行っちゃダメというけれど。』が現在絶賛公開中! 元気いっぱいの台湾人女子と恋に落ちる、少し控えめな日本人男子を好演した俳優の中野裕太さんにお話をうかがいました。
恋愛の楽しさがぎゅっと詰まった、幸せ感に包まれた作品
この物語は、日本のことが大好きな台湾人学生「リンちゃん」と、控えめでのんびりした性格の日本人男子「モギさん」がFacebookを通して出会い、恋を実らせていくという、実話に基づいたストーリー。ドラマティックな展開はほとんどないけれど、ただただほほえましいふたりの恋模様が丁寧に描かれ、観終わった後にはほっこりと温かい気持ちになれる、そんな映画です。
「初めて原作を読んだときには、本当にこんな話があったんだという驚きとともに、果たしてどんな映画になるのだろうという興味が湧きました。出会いのきっかけがSNSという点はモダンなんだけど、それを通して描かれている恋愛の形はとてもクラシカルで普遍的。オーソドックスなテーマではあるけれど、それをここまでピュアに表現した作品も逆に珍しいんじゃないかな」
中野さんはそう語ります。
作中では、Facebookでの会話が文字で表現されたり、直接会う場面でもお互いにカタコトであったりと、セリフは少なめ。それにより、独自の空気感が生まれている印象です。
「ふたりが距離を縮めていく過程を忠実に、繊細に撮っていくという現場でした。台本が現場でどんどん削られていくんですよね。目線や、お互いの空気感で表現してほしいというのが監督の方針でした。
台湾の人たちはみな温かくて人懐っこくて、あっという間に打ち解けたので、そういった繊細な作業においても言葉の壁を感じることはなかったですね。子供レベルの単語で冗談を言い合ってみんなでワハハと笑ったり。言葉がわからないからこそ、ごくシンプルに、表情や簡単なやりとりでお互いを知っていくことができたんです」
なんと、撮影現場には毎日、本物のリンちゃんとモギさんも立ち会っていたのだとか。
「僕たちの演技を観て泣いたり笑ったり……そんなふたりの雰囲気や、それを受け入れてしまう監督をはじめスタッフ全員の雰囲気が、化学反応を起こした気がします。映画を作るときって、人と人とのケミストリーというものがとても大事なんですよね。今回は言葉がわからないからこそ、お互いの本質が深いところで触れ合えたような、そういう現場でした」
日々消えてゆくものをすくい上げ、再現する。それが映画
そんな現場の雰囲気が映像にも宿り、温かく幸せ感に満ちた仕がりとなった『ママダメ』。実話ではあるものの、中野さんはこの作品のことを「おとぎ話」と呼びます。
「僕は、映画にはファンタジックなものであってほしいと思っているんです。例えば、街で耳馴染みのある音楽が聞こえてきて、あ、と思った瞬間スマホに電話がかかってきて、応えているうちにさっきの音楽は忘れてしまう、それが日常生活。そういう、普段だったらぱっと消えてしまうような真実や、日々雲散霧消していく人間の感情の揺れ動きを捉えて、観る人の目の前でぶわっとビックバンのようにはじけさせ、出現させるというのが映画であるべきだと思っていて。それってつまり非日常であり、ファンタジー、おとぎ話なんですよね。映画にもいろいろあると思いますが、僕はそういう映画がいちばん好きなんです」
すぐ忘れてしまうけれど、心の奥底では忘れたくないと感じている。だからこそ、それをスクリーンに観たときに、心を動かされるということなのかもしれません。
「そしてそれは映画だけでなく、芸術やエンターテイメントすべてに共通することだと思っています。日々簡単に消えてゆきそうな人間生活の真実を、嘘――実際にそこで起こっているわけではなく、俳優が演じているわけだから、誤解をおそれずに言うと嘘ですよね――という形を通して、再現する。凝縮され、増幅しているから、それを観た人の心が大きく揺り動かされて、泣いたり笑ったりする。それこそが芸術やエンターテイメントの醍醐味であり、いつの世でも必要とされている理由なのだと思います」
俳優の仕事は、人間を深く知り、表現すること
そんな中野さんは、数年前まではバラエティ番組や音楽活動などでも積極的に活動していましたが、ここ数年は俳優業に専念しているそう。他の選択肢もあったなかで、彼はなぜこの道を選んだのでしょうか。
「僕にとって、選択肢ははじめから俳優しかなかったんです。今までいろいろな勉強をしてきましたけど、そのなかでいちばん興味があったのが、人間とか哲学、芸術といったもの。俳優は、ものすごく人間を知っていなきゃいけない職業なんです。例えばイギリスでは『人生の相談は俳優にしろ』と言われている。いちばん人間のことをよく観察して、知っていて、しかも経験もしてるのが俳優だ、って。
僕にはちょっとセンチメンタルなところがあるのか、例えばさだまさしさんの『償い』という歌の歌詞がずっと心に残っていて……人間の哀しさとか優しさみたいなもの、それに惹かれて、それを表現したいという欲求がある。その欲求に従うと、俳優という選択しかなかったんです」
「それからもうひとつ。昔から人間は、“不死”とかタイムレスなものに憧れを抱く生き物ですよね。俳優って、自分が精一杯生きている姿をカメラに盗んでもらって、それをお客さんに見て盗んでもらえたら、その瞬間から永遠に生きている。自分の生きている一瞬が永遠になるんです。それもまた俳優という仕事の魅力だと思います」
人間というものに対する優しい感性、演じることに対する真摯な想い。それらに突き動かされ、進化を続ける中野さんのこれからに、注目していきたいですね。
『ママは日本へ嫁に言っちゃダメと言うけれど。』好評上映中!
監督:谷内田彰久
主演:中野裕太、簡嫚書(ジェン・マンシュー)
http://mama-dame.com/