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TIMELESSPERSON

2026.09.25

向井理「観てくださる方がいる以上、完璧に演じる」“MR”を描く覚悟と信念

新薬をめぐる企業間競争、薬害問題、そして医療に携わる人々の葛藤を描く、「連続ドラマW MR -医薬情報担当者-」。主人公の紀尾中正樹を演じる向井理さんは、本作を「WOWOWにしかできない“劇薬”のような作品」と表現する。実在する職業であるMR(医薬情報担当者)を題材にしながら、薬と利益、正義と現実が複雑に交錯する社会派エンターテインメント。デビュー20年を迎えた向井さんに、作品への思いや役作り、現場で感じたこと、そして俳優という仕事との向き合い方について聞いた。

まるで“劇薬”みたいな作品

ジャケット¥105,600、パンツ¥70,400/ともにOVERCOAT(大丸製作所3) シャツ¥46,200/HEUGN(IDEAS)

「連続ドラマW MR -医薬情報担当者-」は、新薬を巡る競争や薬害問題といったこれまでにないテーマを投げかける大人のための上質なドラマ。脚本を読んだときの印象について向井理さんに聞くと、「まずMR(医薬情報担当者)を題材にしていること自体が相当攻めているなと思いました」と語る。

「MRは、医療現場にとってすごく重要な仕事です。でも、薬害の問題も出てきますし、作品が皆さんのもとに届いたときにどういう反応が来るんだろうというプレッシャーはあります」

その一方で、作品としての面白さも強く感じたという。

「1話、2話は結構サスペンス色が強いんです。真相に近づいていく過程が丁寧だけどテンポも良くて、見ていて爽快感がありました」

実在する職業を扱う以上、向き合う覚悟も必要だった。

「薬自体はドラマオリジナルのものですけど、MRという仕事は実際に存在しますから、変な描き方はできないし、覚悟を持ってやるしかないなと思いました。もしかしたらいろんな指摘があるかもしれないけれど、『こういうMRがいてもいいんじゃないか』と思ってもらえたらうれしいなと思いました。ある意味、劇薬みたいな作品ですが(笑)、そういう作品に呼んでいただけるのはすごく光栄なことだと思っています」

役作りのヒントは“周囲からどう見られているか”

本作で描かれるのは、製薬会社のMRたちが直面する熾烈な競争と葛藤。実は演じる前からMRという仕事に対する解像度は高かったという。

「仕事内容や普段の生活についてはもともと知っていました。大学の同期だけでも3、4人はMRになっていましたし、学科全体でいうと半分以上が製薬会社に進んでいたので。僕の友人に聞いた話だと、勉強をしなければいけないから寝る時間がないと。会社によって違うとは思いますが、毎月試験があって、成績次第では外回りから外されることもあるんだとか。本当に大変な仕事だという印象はありました」

だからこそ、役作りのためにあえてMRの友人へ取材を重ねることはしなかった。

「それをやりすぎると、今度は台本に対して『友達が言っていた話と違う』ってなりかねないんです。僕らの仕事はまず台本に書かれている人物を演じること。もちろん知識があることで得られるリアリティはありますけど、それだけを追求したら作品として成立しなくなると思うんです。この作品では、患者ファーストを掲げる人物がいて、利益を最優先する人物もいる。でも現実ではみんな患者さんのことを考えているはずなんですよね。対立する価値観があるからこそドラマになる。その意味では、リアリティとエンターテインメントは別物として考えています」

向井さんが演じる主人公・紀尾中は、企業人としての立場と患者への誠実さの間で揺れ動く人物。しかし向井さんは、そこに「葛藤」というよりも、むしろ強固な信念を感じていたという。

「紀尾中自身は、そこまで葛藤しているつもりはないと思うんです。彼は根本的に“患者ファースト”という考え方が揺らがない人なので」

もちろん、一企業に属する人間として守るべきルールや立場がある。紀尾中の行動が本当に正義なのかという悩みも存在する。それでも、演じる上では「信念がブレていないこと」を大切にしていた。

「紀尾中の言っていることは理解できますけど、僕個人としてはそこまで共感はしていないかもしれないですね(笑)。でも人それぞれ大切にしていることは違いますし、それは現実でもよくあること。だからこそ冷静に紀尾中と向き合いながら、この人物ならどう表現するだろうと考えていました」

また、役作りの際には自分のセリフだけではなく、周囲の人物が紀尾中をどう見ているかにも注目していたという。

「僕、人のセリフをよく読むんです。他人からどう見られているかを知ることで、その役の輪郭が見えてくるからです。たとえば、“完璧な人”みたいな見られ方をしているなら、こちらもそう見える人物を作らなければいけないですよね」

主演として担った役割

重厚な作品だけに現場も終始張り詰めた空気だったのかと思いきや、向井さんは「逆でした」と笑う。

「この作品は笑うシーンがほとんどないんです。だからこそ、第3営業所のシーンでは結構ふざけていましたね(笑)」

リハーサルやドライの段階では、あえてセリフの言い方を変えてみたり、台本にはないやり取りをしたり。現場を和ませるための工夫をしていたという。

「第3営業所って、この作品のなかで唯一“戦わなくていい場所”なんですよ。ライバル企業と対峙する場面もそうですし、病院では医師に薬の価値を伝えなきゃいけない。でも営業所にいるときだけは、そういう緊張感から少し離れられる場所だったんです。だからみんなでワイワイやっていましたね」

そこには、現場をあえて緩ませる理由があった。

「ずっとピリピリしていたら、緊張感が逆になくなってしまう。一度弛緩させることで、その次の緊張がより際立つ。助走みたいなものです。周りから見れば、僕がふざけているだけに見えるかもしれないけれど、僕のなかでは、次のシーンをより良くするためでもあるんです。だって、そこでふざけたあとにNGを出したらカッコわるいじゃないですか(笑)」

そうした空気づくりは、座長としての意識から生まれたものでもあった。

「座長として引っ張ろう、という感覚はあまりなかったですが、自分にしかできない役割はあると思っていました。だから台本は誰よりも読み込もうと思っていましたし、気付いたことはスタッフや共演者に伝えるようにしていました。そういう意味では、最初に名前が来る人間にしかできない仕事はあると思いますね」

向井理を支える責任感

劇中では、患者ファーストを貫くあまり「MRに向いていない」と言われる紀尾中。そんな役柄にちなみ、自身が俳優という仕事に向いていないと感じたことはあるかを尋ねると、「めちゃくちゃあります」と即答した。

「そもそも人前に出るのがあまり得意じゃないんです。人見知りですし、昔から目立つタイプでもなかった。正直、スポットライトも当ててほしくないです(笑)」

今では数々の作品で主演を務める存在となったが、その感覚は今も変わらないという。

「本番中にふと『なんでこんなことしているんだろう』って我に返る瞬間があります。子どもの頃は俳優になろうなんて思っていなかったし、こんなに必死に向き合う仕事になるとも思っていなかったですから」

だからこそ、自分が俳優に向いているかどうかについても、今なお答えは出ていない。

「向いている、向いていないは自分で判断することじゃないと思うんですけど、個人的には本来そっち側の人間じゃない気はしていますね」

その違和感の原点は、俳優人生のスタートまでさかのぼる。

「CM撮影のときに新人サラリーマン役で、初めてロケバスに乗ったんです。駅へ向かう通勤シーンだったんですけど、僕の後ろに何十人ものエキストラの方がいて、『よーい、スタート』で一斉に歩いて、『カット』でまた全員戻る。その光景を見て、『なんだこの集団は…!』って思いました(笑)。そもそも俳優って、本を読んで覚えて、カメラの前でしゃべるわけでしょう。冷静に考えたら変な仕事ですよ(笑)」

もっとも、その距離感こそが俳優としての強みになっていると分析する。

「演じることが趣味みたいに大好きかと言われると、そうでもないんです。だからこそ常に少し俯瞰で見ている部分があるのかもしれない。役のことも冷静に考えられるし、『この人物ならどう話すだろう』って組み立てられる」

では、向井さんが壁にぶつかったとき、何を拠り所に前へ進むのだろうか。

「僕の場合は観てくださる人ですね。舞台ならその日に来てくださったお客さんですし、映像作品なら視聴者の方。その人たちが納得してくれるものを届けたいという気持ちが一番大きいです」

だからこそ、作品に向き合う責任感も自然と生まれる。満席の客席を見るたびに、うれしさと同時に身の引き締まる思いになるという。

「完璧にやらなきゃって思います。その人たちに失礼にならないように、誰よりも準備するし、誰よりもセリフを練習する。そういう責任感が原動力になっています」

一方で、作品づくりそのものはあくまで“チームプレー”だとも強調する。

「自己満足のためにやっているわけではない。それなら別に妥協してもいいのかもしれないけれど、現場には監督がいて、スタッフがいて、共演者がいて、その先には観てくださる方がいる」

だから、自分の考えだけを押し通すつもりもない。

「自分が正解だと思っていることが、本当に作品全体として正解かは完成するまで分からないので。だから意見をぶつけ合うというよりは、出し合う。そこでできたものをみんなで信じて進んでいくのが大事だと思っています。だから僕は、周りが見えなくなるような人にはなりたくないんです。作品づくりは個人プレーじゃなくてチームスポーツなので。その感覚はずっと大事にしています」

最後に、向井さんは、ドラマを通してMRという仕事への理解が少しでも広がることを願っていると語る。

「病院にいても、その人がMRかどうかを意識して見る人はほとんどいないと思うんです。だからまずは『こういう仕事があるんだ』という入口になってくれたらいいなと。僕は個人的に、こういう人たちのおかげで日本の医療はすごく発展していると思っています。医師の負担を減らすためにも必要な存在ですし、裏でしっかり支えている人たちがいるから多くの患者さんが救われているんだと思うんです。知っている人は少ない職業かもしれませんが、この作品を通して少しでも認知度が上がったらうれしいですね」

MRという仕事、そして医療を支える人々の存在に目を向けるきっかけになれば。この作品にはそんな思いが込められている。

「連続ドラマW MR -医薬情報担当者-」

出演/向井理 要潤 正門良規(Aぇ! group) 武⽥玲奈 松尾諭 森⽥想 野添義弘 川島潤哉 佐野泰臣 知英 渡辺真起子 升毅 酒向芳 豊原功補 ほか
原作/久坂部⽺『MR』(幻冬舎文庫)
監督/⾦井紘
製作/WOWOW ザ・ワークス
※10月4日(日)午後10時~WOWOWにて放送・配信開始(第1話無料放送・配信)

向井理(むかいおさむ)
1982年2月7日生まれ、神奈川県出身。2006年にCM撮影、TVドラマ「白夜行」で俳優デビュー。数々の話題作に出演し、ドラマ・映画・CMなどで幅広く活躍するほか、ドキュメンタリー番組のナレーションやナビゲーターも多数務めている。近年の主な出演作に、ドラマ『ライオンの隠れ家』(24年)、『ヤンドク!』、『マトリと狂犬』(ともに26年)、映画『パリピ孔明』(25年)、舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』(22~23年 / 26年)など。主演を務める舞台『ブランク』が、10月3日より開幕する。
X @osamu_mukai0207
Instagram @osamumukai_official

SHOP LIST

大丸製作所3 info@overcoatnyc.com
IDEAS 03-6869-4279

PHOTO=池田博美

STYLING=外山由香里

HAIR & MAKE-UP=宮田靖士(THYMON Inc.)

TEXT=GINGER編集部

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