令和の清少納言を目指すべく、独り言のようなエッセイを脚本家・生方美久さんがお届け。生方さんが紡ぐ文章のあたたかさに酔いしれて。【脚本家・生方美久のぽかぽかひとりごと】
乾燥!完走!感想!

Tシャツが乾燥しました!
『Tシャツが乾くまで』全話、無事に完走です。おもしろいドラマでした。企画も執筆も紆余曲折あって苦しかったけど、とても良い経験になった。書いてよかった。うれしい感想もたくさんいただけて幸せでした。
乾燥! 完走! 感想! おつかれさまでした~!!
終わったので言えますが、ドラマにメッセージ性は込めていません。
過去のどのドラマでもそうです。取材などで聞かれるたびに絞り出してきた。嘘ではないけど、ぜんぶ後付けのような感じ。これは結果的に視聴者へのメッセージになってるな~みたいなもの。むしろメッセージ性ってそういうものでは、とさえ思う。制作陣にあらかじめ受け取ってほしい想いがあろうがなかろうが、結果的に視聴者の方が受け取ったものがすべてだからです。
その点、『嘘が嘘で嘘は嘘だ』はよかった。誰もあのドラマに込めたメッセージ性なんて聞いてこないし、聞かれても「嘘はダメってことですかね~」と冗談で応えられるから。それ以外の作品は‟メッセージ性がありそう“な雰囲気なんだと思う。嘘嘘はガチで不倫も詐欺も殺人もしてます!
ドラマを通して社会に訴えかけたいことは特にない。ドラマで社会が変わるわけない。申し訳ない。
ただそれは「メッセージ性を見出すな/受け取るな」ということではありません。あくまで自分の仕事は脚本執筆なので、与えられたテーマや制約のなかで物語をつくらなくてはいけない。しかもまだデビューから5年程度のひよっこ。わたし個人の込めたメッセージ性を優先してドラマ制作なんてできっこないよ!という意味です。
常に〈人間は多面的〉というテーマを這わせるようにしているくらい。できる限り優先したいのは〈観たことない〉ドラマであることと、〈変だけど確実にどこかにいる〉登場人物を描くことです。意識しているのは、そのくらいフワッとしたことだけです。
だからこそ、視聴者のみなさんがドラマから様々なメッセージを受け取っていることがうれしく、おもしろく感じています。制作陣が意識していない、つまり‟正解”のない事象に関して、観た人の数だけ作品の受け取り方がある。それはエンタメの在り方としてある種の‟正しさ”を感じるからです。考察ブームもそうだと思います。当たった外れたを楽しむものではなく、「自分はこう受け取った!」を発表する大会なのだと思います。その根拠を語る部分が考察と呼ばれているだけで。
『海のはじまり』の取材で「視聴者に伝えたいことは?」の項目があったとき、「自由に感じ取ってもらえればいいです」……じゃダメだよな……………と考えすぎてしまい、作品の内容に踏み込み過ぎず、でも世間に知られるべきこととして〈避妊具の避妊率は100%ではない〉〈がん検診の必要性〉の二点をあげました。
すると、「それを伝えたかったのであれば、もっと妊娠や病気に関しての描写を丁寧にやってほしかった」という感想が届きました。たしかに~と思った。その二点が作品の最優先のメッセージ性であれば、そうするべきです。おっしゃる通りです、と思って、メッセージ性を無理やり捻り出すのはやめようと思った。
伝えたいことってなんなんだろ。なきゃダメなのか。クリエイター界隈でよく聞くアレです。伝えたいことがあるならプラカードにそれを書いて掲げればいい、ってやつ。ただ伝えたいことを伝えるだけなら、わざわざドラマや映画にする必要がない。
それに〈伝えたいこと〉って、まるで視聴者が〈受け取るべきこと〉みたいで、なんか違う気がする。なんかわかんないけど、なんか違う。ドラマとか映画とか、そういうことじゃない気がする。わたしが『映画ちいかわ』を観た感想は「かわいかった!」である。
脚本の全話構成を考える際、ドラマの方向性について相談するためにスタッフと共有したメモがありました。エッセイをここまで読んでくださった方に、ちょっとだけお見せします。そのメモの序盤に箇条書きされていた〈ドラマ全体を通して描くこと〉が下記の4つでした。
● 当事者にしかわからない、説明のできない感情や関係性がある。→その良し悪しを第三者がジャッジする違和感。ジャッジすることの清々しさ。
● 愛情を向けることと相手を理解することは別。
● すべてを知ること、知ってもらうことが愛なのか? 隠し事がないことが正義?
● ‟家族観”は自身の養育環境の影響が強すぎる。夫婦観にも直結。
実際にこれらの要素についてのドラマになった気がします。放送が終わってから企画書や昔のメモを掘り起こすと答え合わせができておもしろいです。道が逸れてても、間違いではないし。
前述した通り、ドラマを観た人にこれらが伝わってなきゃダメということでもない。あくまで制作陣が同じ方向を向いて作品をつくるための目印として、企画の初期段階で言葉にしただけです。
娯楽なんだから、学びとかなくてもいい! おもしろかったーでおしまい、チャンチャン、でもいい! ちいかわはかわいい! 秋クールがはじまったら、夏に観たドラマのことは忘れちゃっていいし、実際ほとんどの人が忘れちゃう。そんななかで、ずっと心の片隅に残っていたり、脳裏に貼り付いて剝がれないような印象深い作品がたまーーーにつくれたら。それはそれは、脚本家冥利に尽きる幸せです。
Tシャツが乾くまでお付き合いいただきありがとうございました。実は脚本家を目指すきっかけをくれた大恩人である蒼井優さん。(いつかエッセイに書きます。蒼井さんがいなかったら脚本家になっていなかった)。そして長年の憧れだった土井監督。陰で支え続けてくれたケイファクトリーの千葉Pと宮川P。などなど、全キャスト・スタッフのおかげでおもしろい作品になりました。うれしいです。みなさんとお仕事できたことは、この先の脚本家人生における大きな財産で、エネルギーになりそうです。まだまだ脚本が書けそうです。メッセージ性はないままに。
生方美久(うぶかたみく)
1993年、群馬県出身。大学卒業後、医療機関で助産師、看護師として働きながら、2018年春ごろから独学で脚本を執筆。’23年10月期の連続ドラマ「いちばんすきな花」、’24年7月期の連続ドラマ「海のはじまり」全話脚本を担当。先日最終回を迎えたTBS金曜ドラマ『Tシャツが乾くまで』は現在、U-NEXTで見逃し配信中。

