きっとあなたも家族を思う――。実話をベースに、家族のてんてこまいな4日間を描いた映画『兄を持ち運べるサイズに』が11月28日(金)より公開。ダメな兄の知られざる顔が、ふっと琴線に触れて、怒って笑って、少し泣く。主演を務めた柴咲コウさんも、作品を通して家族を思い、自分を見つめ直したそうで…。
兄が遺した、奇妙な絆と家族への愛

——本作のどのような部分に惹かれましたか?
脚本を読ませていただいて、今の私には実直な家族のお話がすごく新鮮に感じたので、素直に演じてみたいと思いお引き受けしました。私に兄はいないですが、オダギリジョーさんが演じる兄のような「外では良い顔をしている人に限って、身内は大変だよな」と不思議と共感してしまいました(笑)。撮影中は、家族を省みながら自分を見つめ直すような時間だったと思います。
——村井理子さんが書かれたエッセイが原作の作品で、柴咲さんは理子さん役を演じていますが、この役にどんな印象を持ちましたか? また、役作りとしてされたことがあれば、教えてください。
監督の強い意向もあり、撮影前に理子さんご本人からオンラインでお話を伺うことができました。理子さんは、自分のことも周りのことも客観視している視野の広い方。ドライな部分もあると感じたのですが、その分エッセイに本音が綴られていて、それが読み手に共感されるポイントなのかなと思いました。作家さんとして働きながら家のこともきちっとやっている方で、柔和さとある種の頑固さが混在するような印象を受けました。その部分を表現するために、メイクや衣装を作っていきました。この作品の前はロングヘアだったのですが、その柔らかさを表現するために髪をバサッと切りましたし、角がない女性像を見せたかったので少しウェイトコントロールもしました。
——そんななかで、ご自身と役柄が似ていると思う部分はありましたか?
理子さんにお話を伺ったときに「旦那さんや子どもたちと良い意味で距離がある」とおっしゃっていたんです。“人に迷惑をかけたくない”という思いがあるからこそ、家族に対しても一定の距離をとるという部分は、私はもっと輪をかけてそうかもしれないと思いました。正直に言えば、迷惑をかけられたくないという思いもあるかもしれません(笑)。家族に対して「ここを変えてほしい」とか「こういうふうになってほしい」とか、押し付けるのはエゴじゃないですか。いくら家族といっても、個なわけで、踏み込みすぎるのは私のスタイルではないので、ある程度の距離は必要だと思っているタイプです。
——そうしたら、オダギリさんが演じる“兄”のような、周囲を振り回すような人物は苦手ですか?
どうだろう。近くにいたら、距離を置くしかないですよね(笑)。でも、もしかすると私は“兄側”かもしれないです。「人に迷惑をかけたくない」と言って距離を取ることって、“人に合わせられない部分”があると理解しているから。空気を読みたくないこともあるし、放っておいてほしいときもある。私のなかにも相反するものがあるので、兄になる要素を持っているなと思います。

——劇中では満島ひかりさん演じる兄の元妻・加奈子とその子どもたちと食事をするシーンが何度も出てきます。加奈子とは血がつながっていないけれど、不思議と家族を感じられる一幕ですよね。
食事をするシーンは監督もすごくこだわっていて、関係性が見えるシーンですよね。そのシーンは、結構長回しで、リアクションも自由に食べ続けたんです。家族にとってはたわいもない日常ですが、この家族のことを想像したり、自分の家族に思いを馳せたりするようなシーンになったと思います。
——撮影は原作の舞台でもある宮城県で行われたと伺いました。撮影中はどのように過ごしていましたか?
監督のこだわりで、現地だからこそ出る空気感を大切にされていたので、理子さんのお兄さまが実際に過ごしていた場所に行けてよかったなと思っています。お兄さまと交流があった方のお話も聞けましたし、実話だからこそ、人物像に触れられたことは貴重な経験でした。撮影中はみんなでお寿司を食べに行って、食を通してチームがひとつにまとまったような感覚があります。また、実際にそこに住んでいる方の雰囲気を表現したくて、お弁当を作って現場に持って行ったりもしました。
——中野量太監督は映画『湯を沸かすほどの熱い愛』や『浅田家!』など、これまでも家族の姿を描いてきた方ですが、監督とのタッグはいかがでしたか?
最初は掴みどころがない方だなと思ったんですが、実際はすごく正直な方でした。私が「今のシーン、ちょっと違うな」と思ったら、「ちょっと違うんだよね」という顔で近づいてくるので、感情が丸出しで(笑)。そういう意味では、すごく風通しの良い現場で、細かい演出の積み重ねによって、愛情たっぷりな作品ができたのかなと思います。
——オダギリさんや満島さんと共演して、印象に残ったこと、また影響を受けたことを教えてください。
オダギリジョーさんはシャイな方なので、あまり多くを語らないのですが、圧倒的な存在感でこの難しい役を演じていました。監督の撮りたいものを的確に表現されるので、兄の“憎めなさ”はオダギリジョーさんだからだと思います。ひかりちゃんは自分の意志を持ってお仕事されている方なので、年下ではあるのですが、お姉さんみたいに感じて甘えてしまいました。お互い、個人でお仕事しているので、『なんでも聞いてください』と言ってくれましたし、いろいろと相談させてもらいました。

——劇中に出てくる「家族とは支えであり、呪縛ではない」というフレーズがすごく印象的でした。
幼いころから、自分勝手な兄に振り回されてきた理子ですが、その兄が亡くなって「さっさと後始末しよう」と思っていたものの、片付けをしながら兄の人生を追体験していく。もうこの世にいないから、抑えていた思いを伝えることはできないし文句も言えない。そんな状況だからこそ、向き合うしかないですし、自分の視点や感覚を変えることで、兄に対する感情が変わったり関係性が深まったりしていくものなのかもしれないと思いました。そういうことをずっと考えてしまう、じわじわと効いてくる作品だと思います。
——本作を通して家族について思いを馳せられた柴咲さんですが、現時点で“家族とは”という問いの答えはでましたか?
私の場合は、自分が長のような役割があるので、家族を支えなきゃと思うのですが。簡単ではないけれど、いるだけでいいというか。この世に存在しているってこと自体が、力になっていると思います。だから何かを求めることはないし、期待も失望も通り越して(笑)、「いるだけで、ありがとう」と思う存在です。
【11月28日(金)公開】映画『兄を持ち運べるサイズに』

出演/柴咲コウ
オダギリジョー 満島ひかり ほか
脚本・監督/中野量太
原作/村井理子「兄の終い」(CEメディアハウス刊)
配給/カルチュア・パブリッシャーズ
culture-pub.jp/ani-movie
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柴咲コウ(しばさきこう)
東京都出身。2000年の映画『バトル・ロワイアル』、翌年の『GO』で一躍注目を集め、その後、多くのドラマや映画に出演。主な出演作に、『Dr.コトー診療所』『おんな城主 直虎』『ガリレオ』シリーズ、『35歳の少女』などのドラマ、『世界の中心で、愛をさけぶ』『蛇の道』『でっちあげ~殺人教師と呼ばれた男』などの映画がある。その他、歌手としても活躍、サステナビューティーファッションブランド「MES VACANCES」のディレクションも手がけるなど幅広く活動している。現在、ABEMAオリジナルドラマ 『スキャンダルイブ』が配信中。
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