令和の清少納言を目指すべく、独り言のようなエッセイを脚本家・生方美久さんがお届け。生方さんが紡ぐ文章のあたたかさに酔いしれて。【脚本家・生方美久のぽかぽかひとりごと】
リバイバルが生むもの

リバイバル上映の波が来ているようです。個人的にもこの一年で、かなり。
昨年12月、映画『ピンポン』が渋谷でリバイバル上映されることを知り、初日に劇場へ足を運んだ。今更説明もいらない名作。なぜか意外だと言われるが、わたしは昔から『ピンポン』がだいすき。いつか映画館で観たかった。
映画館で観たい映画館で観たい映画館で観たい映画館で観たい———
映画館で観れました。最高。何度も観ているはずなのに、映画館で観るとまた全然違う。自分が大人になったせいでもあり、大人になったおかげでもある。所謂“スポコン”ものにすごく興味があって、めちゃくちゃ書きたい。『ピンポン』みたいな脚本が書きたすぎる。若者が青春を捧げるスポーツ映画/ドラマ。
『ピンポン』の何がいいって、恋愛要素が皆無なことです。普通、ペコが卓球をがんばる理由になるような片想いのクラスメイトとか、密かにペコに恋心を抱く幼馴染とか出てくるじゃないですか。それがいないのがね、最高です。なんでもかんでも恋愛絡めとけば若い女性客を呼べるなんて、そんな単純なわけないんです。打ち合わせでその手のこと言われるたび思うけど「若い女性客」のことをバカにしすぎです。ペコもスマイルもドラゴンもアクマもチャイナも卓球ばっかやってんだから! 最高だよ!
脚本家の商売道具・ノートパソコン。長年パソコンにはステッカーを貼らない主義を貫き通してきたのですが、『ピンポン』の入場特典であのピンクの丸いロゴのステッカーをもらって、「わーーーー! かわい~~~~~~!!!」ってなっちゃってもうその日の夜にペタッとしました。これで宮藤官九郎さんみたいな脚本が書けるはず。いまだに商売道具に貼りついているのはピンポンのステッカーひとつのみです。ちなみにネタ帳にしてるノートにはすきなバンドのステッカーとミッフィーがベッタベタ。最近新しいノートに変わったので、ちょっとずつ貼ろう!ちょっとずつ!って思ってたのにもうすでにベッタベタ。
昨年末の『ピンポン』に始まり、今年に入ってから『その街のこども 劇場版』『キサラギ』『Love Letter』『NANA』『リンダリンダリンダ』のリバイバル上映を劇場で鑑賞できました。どれもDVDや配信では観たことある映画たちですが、やっぱ映画館は良き。『コーヒー&シガレッツ』も観たかった。一日限定上映だったけど『青い春』も観たかった。多忙により断念。悔しいので配信やDVDで観た。これもまた、良き。
『リンダリンダリンダ』の余韻は凄まじかった。音楽青春ものはスポコンです(持論)。こちらも恋愛要素が程よい。女子高生4人のお話だから多少は恋の話もあるんだけど、ほんとに程よい。マッキーの告白だいすき。
特に良いのが、最後の最後の演奏直前。ドラムの響子に「告白どうだった?」とみんなが聞くわけです。で、それに答える響子のメンバーに向けた笑顔がね、いいんですね……。恋が実るとか失恋したとかじゃなくてね、うんうん、いいんだよ、がんばったね、ドラム叩こ。響子いつもニコニコしててくれてありがとうね、ドラム叩こ……でした。(映画観てください。)
映画に限らず、テレビドラマに関してもリバイバルの波が。

草彅剛さん主演の僕シリーズ三部作がNetflixなどで配信開始されました。今まで配信がなかったのでDVDBOXを買って定期的に観直していた大切な三作です。特に『僕と彼女と彼女の生きる道』がとてもすきで、『海のはじまり』というドラマを書くことになったとき、改めて「父親と7歳の娘」という点で得るものがたくさんありました。脚本家・橋部敦子さんの、キャラクターを甘やかさず、でも愛情深く描くところを尊敬しています。わたしの書く脚本が、気付けば対話・対話・対話・対話……となっているのは橋部さんのドラマの影響(のつもり)です。人と人とが言葉を交わすことに尽力した作品がすきだし、自分でもつくりたい。
『僕の生きる道』の一話で、主人公が生卵を床に投げつけるシーンがあります。僕シリーズに限らず全ドラマの全シーンの中で最も素晴らしいシーンだと思っています。具体的な内容や感情はここで言葉にするとチープになるので、是非本作をご覧ください。主人公のこの感情をこう表すのか……と感嘆した。生卵の消費期限を確認するたびに思い出し、自分がいま生きているということに気持ちに馳せる。
テレビドラマの原体験は、小学生のころ平日昼過ぎにやっていた再放送だった。共働きの家庭だったが二世帯住宅で家には祖父母がいたので、学童などへ行かずに放課後は直帰。そして思いゆくまま再放送の古いテレビドラマを堪能した。特にお気に入りだったのが『スタアの恋』。こちらも草彅剛さん×橋部敦子さん! メインライターは中園ミホさん! すごい。今でも現役バリバリなのがかっこいい。関係各所の皆様、『スタアの恋』もぜひ配信をお願いします。
再放送をきっかけにいろんなドラマに出会い、紆余曲折あり、この仕事をしている。放送が終わった作品が長い年月をかけてまた何かのきっかけで再放送されたとき。放送当時は生まれてなかった次世代の子たちの目に触れて、人生を変えたりするかもしれない。映画や配信ももちろん素敵だけど、テレビドラマの“事故的に出会っちゃう“感じがだいすき。学校から帰って、テレビをつけたら朝見てためざましテレビのまま8チャンになってて、自分が生まれる前の月9が再放送されていて‥‥‥みたいなことが、10年後、20年後もありますように。
こんなに昔の作品の良さ、それらをいま観ることの良さを語っておいてなんですが、「昔のドラマ/映画はおもしろかったなぁ~」なんて無邪気な感想を目にすると、胸がギュンとなります。恋かしら。我々は‟いま”ドラマや映画をつくらねばならない。これらの大傑作が存在していて、現代人をも熱狂させている作品がたくさんあるとわかっていながら、“いま”、新しいものをつくらねばならない。苦行だ。どっかで見たことあるものじゃダメとも言われるし、ヒットの法則に則るべきとも言われる。求められるのは共感性とSNSのトレンド入り。かといってまだまだ視聴率を無視することもできない。
もう何を書いたらいいかわかりません!!!!
それでも自分の原体験の煌めきが忘れられないので、テレビドラマを書き続けます。ぼんやり再放送のドラマ観てるちびっ子も、スマホでTVerを観てるちびっ子も、ちょっと聞いてください。脚本家っていう仕事がありまして。
生方美久(うぶかたみく)
1993年、群馬県出身。大学卒業後、医療機関で助産師、看護師として働きながら、2018年春ごろから独学で脚本を執筆。’23年10月期の連続ドラマ「いちばんすきな花」、’24年7月期の連続ドラマ「海のはじまり」全話脚本を担当。