12月1日(金)より全国公開される映画『隣人X -疑惑の彼女-』の主演を務めるのは上野樹里さん。これまでのミステリーロマンスとは一線を画す、新たな視点でメッセージを発信する本作。物語内で疑惑の女性・柏木良子を誇り高くしなやか演じた上野さんがこの作品にかける想いとは?
予測不能!異色ミステリーロマンスが公開
二転三転する真実、交錯する想いと葛藤――。「無意識の差別」や「見えない偏見」をテーマとした映画『隣人X -疑惑の彼女-』が12月1日(金)より公開される。主演を務めるのは、上野樹里さん。原作は第14回小説現代長編新人賞に輝いたパリュスあや子さんの『隣人X』(講談社文庫)で、監督・脚本・編集を務めるのは映画『ダイブ!!』や『君に届け』、『ユリゴコロ』などを手掛けた熊澤尚人さん。上野さんとは映画『虹の女神Rainbow Song』以来17年ぶりにタッグが実現した。
本作は、原作小説を基に熊澤監督が新たな視点やアレンジを盛り込み完全映画化。ほかの惑星からの難民を受け入れたという大胆な設定で、人との繋がりや社会の偏見を問う作品へと昇華させた。物語の舞台は、惑星難民Xの受け入れを発表した日本。人間の姿をコピーできるXは日常に紛れ、どこにいるのかもわからず、恐怖と不安が蔓延。そんななか、人々はXの所在を知ろうとしていた…。スクープを狙う週刊誌記者の笹(林遣都)は、Xだと疑われている良子(上野樹里)に近づくのだが、次第に2人は惹かれ合う。嘘と謎だらけのふたりの関係は想像を絶する展開へ…。というストーリーを読んだだけで、すでに「面白そう!」「観たい!」という声が聞こえてきそう。
上野樹里さんにインタビュー!
――上野さんは本作が7年ぶりの映画主演ですね。出演を決めた理由はなんでしょう?
20歳の頃にお世話になった熊澤監督から、「良子の役は上野樹里さんでお願いしたい」とお話をいただいていると聞いて。脚本を読んでみると良子はミステリアスな女性で、以前ご一緒したときとは全く違うキャラクターの役だったので、「どうしてこの役を私に?」と熊澤監督にすぐ電話しました(笑)。お話ししているうちにあれもこれもとアイデアが膨らんできて、作品の余白や深みみたいなものを感じたからです。
あと、コロナ禍を経た今だからこそ意味のある作品だな、とも思っていて。例えば、今の学生たちは入学当初からマスク生活だったから外すのが恥ずかしかったり、ワクチンを打った打たないで人間関係がギクシャクしたり…。世界中の人がそんな時期を過ごしていたから、人と人の心の距離が遠くなったような気がしていて。まずは隣の人ときちんと対話する。周りの意見に流されずに自分の考えをもつ。スマホの情報で知った気になるんじゃなくて、実際自分の目で確かめる。そんなかつては当たり前だったことを伝えられたらなと思いました。
――本作のプロデューサーは「上野さんも企画プロデューサーのひとりだと思っています」と語っています。時には8時間に及ぶ打ち合わせもしたとか。一緒に作り上げていく過程はいかがでしたか?
自分でも自分のことを不器用だと思うのですが、作る面白さを感じられる作品でないと参加できないんです。とりあえずやってみよう!というのが苦手で。作品の核は脚本で、すべてがそこに集結すると思っているので、結構自由にアイデアを出させていただきました。そのときは何にも縛られずに、ニュートラルに「こうしたらもっと面白いんじゃないかな?」とお話しさせていただきましたね。
最初の脚本の時点では、私が演じる良子はもっとミステリアスで人間味のないキャラクターだったんですよ。なんでここで涙を流すんだろう、みたいな感情の読めない人物で。作り上げていくうちに、控えめで表現が苦手なんだけど、話してみると居心地が良かったり親切だったり丁寧に生活していたり…という一面を感じられる女性像になったんですよ。笹の目線でストーリーは進んでいきますが、もう一度見たときに、良子目線でストーリーを見たらまた新しい発見ができる。それくらい演じた役については細かくこだわりながら作ることができましたね。
――上野さんが演じた「柏木良子」は国立を大学を出て大企業に就職後、数年で辞めてコンビニと宝くじのバイトを10年以上続ける地味で質素な生活を送る人物。どんなキャラクターだと分析し、向き合ったのでしょうか?
休日は図書館に通ってとにかく本を読んでますしね。良子になにがあったのかは分からないですが、静かに隠れるように生きていたら…確かにすごく怪しく見えますよね(笑)。でも良子って自分の感覚には嘘をつかない人だと思うんです。自分で自由を選んでいるというか。世間の目を気にしていなくて自分だけの世界を持っていて。時代が変わっても情報に惑わされないんです。その分ちょっと抜けてるところがあって危うい存在でもあるんですが。世間に飲み込まれない“強さ”に魅力を感じました。
――熊澤監督とは先ほどもお話にあったように、直電して話し合う間柄。役作りに関してやりとりはなされたんでしょうか?
小説やエッセイでもそうですが、文字面を見てるだけでそのキャラクターのビジュアルって想像できるじゃないですか。台本が出来上がるにつれてどんどん良子のビジュアル面の解像度も高くなってきて。そうすると知らず知らずのうちに、街のなかを歩いているときも“良子を形作るピース”を探しているんですよ。良子が持っていそうなアクセサリーやバッグは「これください!」って買ったり、自分の私物も持ち込んで合わせてみたり。「これいいんじゃないかな」と思うアイテムは画像を監督に送って、「いいね!」って言われると監督も同じことを想像してるんだなって嬉しくなりました(笑)。ビジュアル面に関して良子って一見無頓着なようですが、実際はかなり作り込んだので楽しかったですね。
――作品を通して伝えたいメッセージは?
非現実的な映画という世界に一旦没入することで、現実を客観視できることってありますよね。映画館を出て現実に戻ったときに、今までなんとなく過ごしていた日常を少しだけ意識的に感じられたり見えてくることがあったり。そういう見せ方を丁寧に作れた映画になったと思います。
世の中で話題になっているものや流行っているもの。ランキングで1位になっているもの――。自分がそういう事前情報を入れずに目にしたら、実際は良いと思わないかもしれないし、自分のなかでは一番じゃないかもしれない。
SNSの発達やコロナ禍で、人とのアナログな対話って減りましたよね。情報社会の渦の中で本当のことが分からなくなったり、マスクの下の表情が見えず人間関係が希薄になったり。そんな世の中だからこそ自分の気持ちだったり自分らしさを大事にしてほしいなと思っていて。この映画を観て「自分もその渦に巻き込まれてその一員になってしまうかもしれない」と感じたら、ちょっとだけ意識してみてほしいです。これから先どうやってより良く生きていくのか、無意識に過ごしていた日常をちょっと意識するだけで変わっていけることってあると思うんですよね。ぜひ多くの人の元に届くと嬉しいです。
――予告で公開されている数秒間のなかに「私がXでも好きになった?」と良子(上野さん)が笹(林さん)に問うシーンがある。ここで示されるのはやはり〈よそもの〉への偏見や無意識の差別なのだろう。大切なのは、世間やSNSの声ではない、自分の心の声や隣にいる大切な人の思いだということ。「観終わった後、人に優しくなれる作品です」とインタビューの最後を締めた上野さん。誰がXで、Xとは何なのか。観る人の心の深層に訴えるような珠玉のミステリーロマンスを、ぜひ映画館で体験して。
映画『隣人X -疑惑の彼女-』
出演/上野樹里 林遣都
黃姵嘉 野村周平 川瀬陽太/嶋田久作/原日出子 バカリズム 酒向 芳
監督・脚本・編集/熊澤尚人
原作/パリュスあや子「隣人X」(講談社文庫)
配給/ハピネットファントム・スタジオ
https://happinet-phantom.com/rinjinX/
※12月1日(金)新宿ピカデリー 他全国ロードショー
上野樹里(うえのじゅり)
1986年5月25日生まれ、兵庫県出身。2004年に映画『スウィングガールズ』の主演を務め、同年日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。以降、ドラマ「のだめカンタービレ」で脚光を浴び、「ラスト・フレンズ」「監察医 朝顔」の話題作に出演。