女性医療ジャーナリストの増田美加さんによる連載。人生の基礎になる“健やかな体”を手に入れるための最新知識をお届けします。
生理痛がつらいのは、「自然」ではありません
日本女性の3人に1人が生理痛にひどく悩まされている(*1)ことを知っていますか? 生理痛は、ほかの人の痛みや不調とは比べにくく、「つらくても、婦人科受診はハードルが高くて~」という声も。
生理とは、長いおつき合い。だからこそ、自分にあった対処法を知っておくことは大切ですね。生理痛やPMSが起こるわけを知れば、私たちの快適な暮らし方につながります。
生理痛は、痛みの程度、症状、痛む場所など千差万別です。女性は、一人ひとり毎月、別々の生理痛を経験しているのです。
けれども「生理痛があるのは、あたりまえ」「いつもの自然なこと」と我慢していませんか? でもその痛みは、不自然な可能性もあるのです。
ある研究(*2)によると「生理痛がある」と答えた女性は、約8割も。さらに、生理痛を経験した人のなかで約3割の人が、治療が必要な状態でした。
プロスタグランジンという痛み物質、知っていますか?
生理痛のなかには、病気のサインである可能性があるものも。生理痛の症状や起こり方によっても異なり、背後に隠れている生理痛の原因はさまざまです。
生理痛が起きる原因のなかで多いのが“プロスタグランジン”というホルモンに似た痛み物質の分泌です。
プロスタグランジンは、子宮を収縮させ、不要になってはがれ落ちた子宮内膜を、血液とともに子宮の外へ押し出す働きをしています。つまり、生理の出血は、プロスタグランジンの分泌があるから起きるのです。
一方、プロスタグランジンには、子宮への血流を減少させ、子宮内の神経を痛みに敏感にさせる作用があります。そのため、これが過剰に働くと、必要以上に子宮が収縮し、痛みを引き起こしてしまうのです。
「プロスタグランジンの分泌で、子宮が収縮すると痛みが出る」というと、「やはり生理痛は、我慢するしかないのね」と思ってしまいそうですが、それはNO!
生理は女性にとって自然ですが、つらいと感じる生理痛は、決して自然ではないのです。
女性のライフサイクルの変化が原因に!
生理痛に悩む人が増えている背景には、現代女性が一生のうちに経験する生理の回数が、昔に比べてかなり増えているという事実があります。
現代女性の一生の生理回数は、約450回。それに対し、昔の女性の生理回数は約50回だったという研究報告があります。8~9倍、現代女性のほうが、生理回数が多いのです。
その理由には、昔の女性に比べ、子どもをたくさん産まない、授乳経験が少ない、出産年齢の上昇、晩婚化、初潮(初経)年齢が早い、閉経年齢が遅い…などが考えられます。
一生の生理回数は、この100年でも大きく変わってきていて、1840年(江戸時代後期に相当)の女性は、一生のうちの生理は約100回。今の女性の4分の1程度だったという研究もあります(*3)。
生理回数の増加にともなって、セルフケアだけでは、どうにもならない生理痛に悩む女性が増えています。女性の体は、これほど生理が多いようにはデザインされていないのです。
生理回数の増加は、子宮内膜症や不妊、乳がんなどのリスクにも!
生理回数が増えた(妊娠・出産回数が少ない)ことは、現代女性の痛みや不調とどうつながるのでしょうか?
生理回数が多いこと自体が、私たち現代女性が抱えている生理痛やPMS(月経前症候群)の原因になっています。ほかにも、月経困難症(ひどい生理痛)、子宮内膜症、不妊、子宮腺筋症など、婦人科の病気の原因にも。
また、分娩回数が減ったり生理回数(=排卵回数)が増えたりすると、罹患するリスクが上がる病気には、卵巣がん、子宮体がん、乳がんがあります。
このように、現代女性のさまざまな病気が、生理回数が増えていることによって引き起こされているのです。
痛み止めを手放せない人は、月経困難症を疑って!
生理痛の中で、日常生活に支障をきたすほどのつらい症状が出るものは“月経困難症”と呼び、1つの疾患として扱われています。
月経困難症は、大きく2種類に分かれます。
1つ目は、“機能性月経困難症”。目に見える病気が存在しないのに、症状が出る場合で、先ほど紹介したプロスタグランジンの分泌が多いことや、子宮が未成熟であることが原因です。
2つ目は、“器質性月経困難症”。こちらは子宮内膜症や子宮筋腫、子宮腺筋症など、直接的な原因となる病気が存在する場合です。
月経困難症の症状は、腹痛や腰痛はもちろん、吐き気や下痢、頭痛などが現れる人もいます。婦人科医が診断をするときには、本人が生理に伴う症状によって、日常生活に支障が生じていることを基準としています。
生理中に痛みが激しく、痛み止めが手放せないなど、生活に支障をきたしていれば、月経困難症と診断されます。
生理痛は治療できます!我慢しないで
生理痛などのつらい症状は、我慢せずに婦人科を受診していい、むしろ受診するべき「病気」です。
生理痛の背後に病気が隠れていても(器質性月経困難症)、隠れていなくても(機能性月経困難症)、婦人科では症状を改善する治療法があります。
器質性の月経困難症なら、子宮内膜症、子宮筋腫、子宮腺筋症など、直接的な原因となる病気を治療することで、痛みを改善します。
背後に病気がない機能性の月経困難症には、低用量ピル、鎮痛剤(痛み止め)や漢方薬などの治療法があります。
なかでも、低用量ピルは、生理痛を軽減するだけでなく、生理周期を整え、出血量を減少させたり、卵巣がんや子宮体がんのリスクを減らすなど、女性にとってメリットが高い薬です。
低用量ピルにはごくわずかに、血栓症のリスクを高めるという副作用もあります。ピルへの不安がある人は別の治療法もありますので、まず婦人科に相談しましょう。
低用量ピルで生理を調整するなんて不自然という人がいますが、そもそも、現代女性のように生理回数が多い状態は、本来の人間の体にとって不自然なことなのです。
つらい症状を改善するために、低用量ピルで生理痛を調整することは、決して不自然なことではありません。
現代女性は、生理痛に限らず、妊娠や出産、更年期障害、女性ならではの病気など、男性とは違う、健康の問題を抱えています。そのときに、自分の体や健康について相談できるかかりつけの婦人科医がいると安心。人生100年を見据えて、自分らしく生きるための健康のパートナーになってくれるはずです。
*1 2007年11月、全国1,000人の女性(20代136人、30代519人、40代345人)に実施した「生理と生理痛アンケート(株式会社ハー・ストーリィ 集まれ!ご意見ネット調べ)」の結果
*2 リプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康)から見た子宮内膜症等の予防、診断、治療に関する研究(総括研究報告書)2000年度
*3 American Journal of Obstetrics & Gynecology:AUGUST,201-203,2016