「本好き」のために、本好きの女性が編み出したマッチングサービス「チャプターズ」。この事業に自分の夢を託してひた走る、ミッション ロマンチック代表の森本萌乃社長に、注目を集めるサービスの魅力をインタビュー。
おせっかい好きが高じて出会いをビジネスに!
「本屋さんでのデートって楽しいですよね。お互いのおすすめを教えあったり、一緒に新しい本を見つけたり。そんな時間を楽しめる相手を自然に見つけられたらいい、そういう思いでこのサービスをつくりました」
そう笑うのは、マッチングサービス「チャプターズ」を運営するミッション ロマンチック代表取締役の森本萌乃さん。この「チャプターズ」とは、書店員や出版社、そしてチャプターズスタッフが選書する4冊の本のなかから、会員が1冊を選び、同じ本を選んだ異性とマッチングするというサービス。
プロフィールや顔写真の表示はなく、「同じ本を選んだ」「日程が合う」という条件で、年齢差7歳以内の男女を中心に出会わせる。マッチングしたら「アペロ」と呼ばれるビデオチャットで20分間会話をし、その後の連絡先交換は自由。以降は自分たちで関係性をつくっていき、「チャプターズ」は介入しない。
「基本的に、お客様は常に受け身で『本屋に行ったら偶然いい感じの人と出会っちゃった』というイメージを大切にサービスをつくっています。会員数が少ないときは、私たちがデータを見て、『この人はこの人と合いそうだね』と、人力でマッチングさせていたんですよ。私は個人的にも、友人同士などこれまで何組かカップルをくっつけてきていまして、それがある種得意だし生きがいなんですよね(笑)、この仕事はその延長かもしれません」
写真やプロフィール重視のマッチングサービスに疲れた大人たちが、純粋に本の感想を語り合うこの出会いに癒やしを求めて、アクティブ会員は今、1,200人ほどいるという。
もともとは読書が大好きだという森本さんが、読書仲間を増やす「読書クラブ」のつもりでつくったというこの「チャプターズ」。そのリアルイベントを開催していくなかで、「本を介してなら、世の中にあるマッチングサービスより自然体で、男女が出会えるかもしれない」と気が付いた。
「ひとりで本を読む時間を楽しんで、その先に出会いがあるかもしれないーー。マッチングサービスとしてはとてもユルいんですが、そのユルさを楽しんでくださる人が集まっている印象です。現在、弊社はオフィスとカフェをつくっているところなのですが、将来的に会員さんにカフェに選んだ本を取りに来てもらって、そこでコーヒーを飲みながら読んでもらう、なんてこともできるようにと考えています。カフェで本を読んでいたら、出会いがあるかもしれませんよ!?」
読書好きの、おせっかい好き。森本さんは自分のパーソナリティをそのままサービスに、仕事に落とし込んでいる。週に7日、仕事をしない日は1日もないというが、自分のアイデアをそのままカタチにすることができる今が、充実しているのだという。
「周りの友人でも、マッチングサービスでなかなかいい人に出会えず、不毛なデートばかりを繰り返してしまい疲れた、と言っている人が多くいました。『チャプターズ』では、本を通して、男女が自然に出会えるんだ!と思いついたときには、ワクワクしましたね。だからそれに賛同してくれる仲間や、会員さんとともにサービスをつくっていけるのが、楽しくてしょうがないんです」
社長業は、地べたを這いずりまわること!?
そもそも森本さんのキャリアは新卒で電通に入社するところからスタートした。
「大きなイベントの裏方で、インカムをつけて会場を駆け回る。そういう仕事に憧れていて、電通でプロモーション部に配属されたときは『やった! 理想に近い仕事だ!』と嬉しかったんです。入社4年目かな? 実際にインカムをつけて数万人規模のイベントの裏側を駆け回れたのですが、電通の仕事は基本B to B、そのなかで実際にお客さんの顔が見えたり、サービスを利用する人の声だったりが聞こえる、B to Cの仕事をやってみたいという思いが募っていきました」
電通に4年勤めた後は、ベンチャー企業に転職。二社の転職を通じて、直接お客さんの声が聞こえるサービスづくりに携わった。
「これまでは、大きなプロジェクトのほんの一部分の仕事をやっていて、プロジェクト全体が見えていなかったことに気が付きました。サービスの立ち上げから、お客さんに届くまで、そしてお客さんからの問い合わせ対応やサービスの改善まで、今までなにも知らなかったんだと、猛勉強の毎日でした」
毎日眠りに落ちるその瞬間まで仕事のことを考えていたいという当時の森本さん、けれどこのときすでに「チャプターズ」の構想は頭の中にあったそう。
「映画『耳をすませば』で、本棚の本に手を伸ばして、偶然手と手が触れ合って、というシーンを見て、『こういう出会いがあればいいのに!』と思ったんです。そこから仕事を週4日出社にしてもらい、そのときに書いたメモの走り書きをもとに、『チャプターズ』創設のために動いていました」
2019年に、ベンチャー企業に在籍しながら自身の会社ミッション ロマンチックを創業。’20年に独立して、サービスの運営を開始した。
「本を読むこと、人をつなぐこと、そしてその人たちの声を聞くこと。私の好きなことを全部そのまま仕事にすればいい。今はそれ全部が自分の夢で、目標で、私の人生そのものです。けれど社長になってビジネスをやる、そこは理想だけではやっていけません。確定申告もろくにできなかった私が、そこからは毎日お金の計算をして、必死で勉強して、事業計画を書いたり資金調達にも走り回りました。こういったインタビューの時間は華やかですが、ほとんどはあのときから変わらず、地味で面倒な作業を泥臭く続け、地を這いつくばるような毎日。『こんなことまで社長がやるの?』って、びっくりすることばかりです(笑)」
それまで会社員だった森本さんが、仲間を集め、会社を立ち上げ、サービスの開始・運営までを、経営者としてやり遂げてきた。そのなかで、自分自身の変化を感じているそう。
「新卒で電通という大企業に就職したとき、終身雇用を信じて疑いませんでした。なので、元々は自分の人生設計において保守的だし、ビビりな性格だったんです。それが、独立して会社をつくったことで、もうビビっていられない!と思うようになりました。
女性起業家という言葉を最近よく聞きますし、女性の社会進出がしやすい風潮がありますが、それは女性だから優遇されるという意味では決してありません。現実はまだまだ、うまく行ったら『女性はいいな』と思われて、ダメなときは『どうせ女性だ』って思われて、いいことなんてないですよ。
それでもやりたいことがある。だったら、もうひたすらタフになろうと決めたんです。『こんな仕事はできない』とか『必死だと思われたくない』なんてプライドは全部捨てて、傷ついてもタフにやり続ける、会社のためならなんでもする。本当はもっと可愛い30代になりたかったんですけど。現実は厳しく、カッコ悪いものです。
でもそうしているうちに、カッコ悪いことこそ、カッコいいんだなと思うようになりました。タフであるためには、やっぱり自分が何を求めているのか、取引先の相手がうちと組むことでどれだけのいいことがあるのか、きちんと言語化することが大事。そして、その言語化って、本を読めば読むほど、言葉に触れるほどに上手になっていくんだと思います」
現在オフィスと併設するカフェを建設中。森本さんとともに働きたいと、一般企業の内定を蹴ってやってきた新卒のメンバーも増えた。「泥臭く、這いつくばる」と言った森本さんだけれど、その表情は実に晴れ晴れとしている。
満身創痍で迎える30代も楽しい
33歳の森本さん。実はベンチャー企業につとめていた20代の頃、GINGERのライターとして恋愛コラムを書いていたことも! 最後にGINGER読者が仕事と人生を楽しむためのアドバイスをもらった。
「20代は、自分のキャリアとか結婚とか、悩むことがたくさんあると思います。でも逆に言えば大失敗ができる年齢。そして大失敗してでもやりたいことが出てくれば、それが自分にとって1番大事なことなんだと思います。失敗しても、もう一度。そう思えるものがあるなら、次の挑戦では絶対失敗しないと思います。20代で自分の基礎を固めて、素敵な30代を送ろうとしなくて大丈夫。満身創痍で迎える30代だって、きっと楽しいはずです。私が言うと説得力ないかな(笑)」
チャプターズ
https://chapters.jp/
森本萌乃(もりもともえの)
1990年3月17日生まれ、東京都出身。MISSION ROMANTIC代表取締役/Chapters書店主。電通でプランナーとして勤務後、2017年 My Little Box Japanに入社。マーケティングマネージャーを務めたのち、FABRIC TOKYO へ。’19年にミッション ロマンチックを立ち上げ、‘20年オンライン書店「チャプターズ」開業。男女比は女性6割、アクティブ会員は1200人を超える。