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LIVING

2022.08.18

めまいはめまいでもエルメスじゃないほうについて【わたしを着替える】

ワードローブを更新するように、価値観のアップデートを! スタイリスト 小泉茜さんによる連載エッセイ「わたしを着替える」。

エルメスのリング

Vol.5 ナチュラルボーンなめまい

ずっとやりたかった仕事ができたときに、自分を鼓舞するつもりで購入したエルメスの“めまい”(ヴェルティージュ)という名のリング。エルメスの伝統的なダブルターンというデザインをマルジェラが解釈したものらしい。ストイックな印象のシルバーと柔らかなカーブが、心地よい緊張と緩和を表している。

そうそう、最近リアルに感じた“めまい”と言えば、今年のジェンダーギャップ指数だ。

今回も主要先進国で最下位の146ヵ国中116位。ジェンダーギャップ指数とは、教育・健康・政治・経済の4分野で男女格差を数値化したもので、日本は教育・健康ではトップクラスだが、政治・経済で低迷している。最近発足した第2次岸田内閣の集合写真を見ると、人口の半分は女性ということを忘れてしまいそうなくらいに見事に男性ばかりだし、野党も含めて政党党首はほとんど男性。経済に至っては男性と女性で生涯年収に1億円以上の差があると言われている。

ただこの“ジェンダーギャップ指数”、最近よく目にするけれど、なんだかんだ自分の生活にはあまり関係ないように感じる人もいるかもしれない。

実際に、男女格差の話をすると「わたしは経験したことないけど」と驚かれることがある。たしかに、政界のおじいさんたちのようにあからさまな差別発言をする人には日常でそうそう出会わない。

でも、例えばわたしにはこんな友人たちがいる。
マッチングアプリでわざと年収を低く設定し、知っていることも知らないように振る舞う人。
飲み会での女性蔑視な下ネタに気にしてないフリをし、自分をBBAだと揶揄して“自分の価値を客観視できている女”をアピールしたことがある人。
「弟を大学に行かせたいからあなたは行かせられない」と親から言われた人。
結婚、出産願望が無いと言ったら「そんなのはわがままだ」と言われた人。
彼(夫)と同じ時間、同じ収入で働いているのに家事育児全般を担っている人。
結婚したら離職して夫のサポートと育児に専念すべきと、親戚から圧力を受けている人。

彼女たちはたまたま運が悪かっただけなのか? あるいは“女性とはそういうものだから仕方がない”のか?
もし、男性も育休を取ることが普通で、専業主夫が専業主婦と同じ数だけ存在し、部活のマネージャーや秘書などの“サポート役”に男性もいて、トップと呼ばれるさまざまなもの(総理大臣や社長、校長など)が男女半々いる。そんな世の中だったら…
彼女たちはこんな経験をしただろうか。

世界中に散らばった“有害な男らしさ(※)”を7つ集めて召喚したような父を持つわたしの場合は、フリーランスで働くことを中学生のころから決めていた。
その理由は「自分のペースで産休が取れ、育児しながらでも産前と同じポジションで働けて、夫に金銭的に頼らずに生活ができるから」である。
目の前に無限の可能性が広がっている中学生の時点で、結婚や出産を経ても自立できるかどうかを前提に人生プランを考えていたなんて…当時のわたしに声をかけ、「結婚や出産は女性の義務じゃない。性別でやりたいことを制限しなくていいんだよ」と肩の荷を降ろしてあげたい。

女性側の例ばかり挙げてきたが、もちろん逆パターンも存在する。
男性は「いい大学に入り、いい企業に就職し、家を買い、妻と子供を養うこと」が“スタンダード”であるかのように言われることがある。女性が非正規やパートで働いてもなんとも言われないのに、男性だとどうか? 専業主婦がいてもなんとも思われないのに専業主夫はどうだろうか。

男女の立場が逆転した世界を描いた『軽い男じゃないのよ』という映画を観ると、わたしたちが普段生きている世界の歪みに気づきめまいがする。世界中でジェンダー平等が実現するには132年かかるという調査結果を目にして、そんなもんで本当にイケる…???と、まためまいがする。(我が国が足を引っ張ってすみません!)

わたしたちは産まれてこのかた男女平等な社会を生きたことが無い。もはやナチュラルボーンでめまいだ。でも、このいびつな世界を水平にするには、みんなでめまいを感じることが第一歩だとわたしは思っている。

※有害な男らしさ(Toxic masculinity)とは、「男はこうあるべき」とされる規範のうち、暴力性など負の面があるもののこと。これについてもまた改めて書いてみたい。

小泉茜の【わたしを着替える】をもっと読む。

TEXT=小泉茜

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