自分に似合う服を選ぶとき、着こなしを考えるとき、知っておきたいファッション用語やテクニック、今どきの常識を、スタイリスト青木貴子さんが独自の視点を交えながら解説する連載「大人のおしゃれワード集」。(編集部)
10月に入りめっきり秋めいて、気温もグンと下がってきました。例年はもう少し緩やかに変化する気がしますが、今年は何だか季節や時の流れが急ぎ足ですね。
さて、寒くなったり陽が短くなるのはちょっとイヤな気がするけれど、おしゃれをするにはいいシーズンの到来です。すこーし寒くなったら、ジャケットの出番!
秋冬の主役級ジャケットの筆頭といえばツイードジャケット。今回はツイードについてのお話です。
実は奥が深い!ツイードの成り立ち
ツイードってどんな素材か知っていますか?「なんとなくこう?」というイメージはあるでしょうが、詳しくはわからないという方も多いのではと思います。わたしがこれまで出会った中で、ツイードをこよなく愛しているのは高確率で男性。けっこう明確に、語れる人が多いんです。おしゃれメンズが好む素材、ツイード! それもそのはず、ツイードには歴史があり、同じツイードの中でもタイプが細分化されていたりと、意外とマニアックな語りどころが多い素材なのです。
ツイードというのはイギリス、スコットランドで作られる毛織物のひとつで、スコットランド産の羊毛を使い、手織りで作られた平織りまたは綾織りの、粗く厚い織物を指します。ボーダー地方というところのツイード川流域で作れれていたことから、この呼び名がついたそう。シャンパーニュ地方で作られるスパークリングワインのみがシャンパンと呼ばれる、みたいなものですね。
糸をさまざまな色に染めたあとで織り上げるので、美しい織り柄が出るのも特徴です。代表的な柄ゆきはヘリンボーン(杉綾織)、ハウンドトゥースチェック(千鳥格子)など。
もともとは手織りであったこと、そして短く刈り取った羊毛をそのまま織るために使用する毛量も多いことなどから、カジュアルな雰囲気を醸しつつ実は“高級素材”! そんなところもおしゃれメンズの心をくすぐるのでしょうね。
寒い地方の羊毛だからこそ実現するその機能性!
しかも産地によって、生地の名称も風合いも異なり、語れる要素が本当に多い。有名なのはハリスツイード(聞いたことありますよね?)。これはスコットランドのハリス島で作られています。少しゴワっとしたカジュアルな風合い。ほかにも、ハリスツイードより柔らかい素材感のシェットランドツイード(スコットランド、シェットランド諸島)や、ネップ(斑点)が特徴的なドニゴールツイード(アイルランド、ドニゴール州)などが有名。これを知っていると、おしゃれメンズとおしゃれ談義で盛り上がれそうです!
その地域で育った羊ちゃんならではの風合いに仕上がる、と聞くとちょっと可愛く、愛着が湧きませんか? ツイードは寒いところに住む羊の毛から作られているので、保温力に優れていて、防風・防寒性が高く、さらに自然の撥水機能もあるため秋冬の強い味方になってくれるのです。
古きものは新しくもある、不変かつ可変なツイードの魅力
ツイードはちょっと厚地でゴワゴワしているので、着慣れないとコンフォータブルではないかもしれません。でも着ていくほどに柔らかくなり、体に馴染んでくるのです。そんな自分で“育てる服”にもなり得るのがツイードの大きな魅力。実際、耐久性に優れているので、英国では親子三代で受け継いで着る人も多いのだそう。実はいま注目されているサステナブルな精神に則った服とも言えます。
永きにわたって大切に作られてきた本格的なツイードは、大人の女性のワードローブにぜひ加えてほしいアイテム。今は機械織りだったり、見た目だけツイード風に作られている生地も多いですが、本物の魅力もぜひ知っていただきたいです。
今年より来年、またその先も、どんどん寄り添ってくれて、愛着の増していく“育てる服”。そしていつまでも新鮮な気持ちでツイードを着続けられたら素敵だなって思います。
【解説】大人のおしゃれワード:ツイード
本来は、手紡ぎの太い紡毛糸を使い手織りで平織りまたは綾織りにして、羊毛の風合いを残したまま仕上げたスコットランド特産の織物を指す。産地や羊の品種、織り方などによりさまざまな種類がある。現在ではそれに似た、ざっくりした厚手の紡毛織物の総称として使われている。