通勤電車で、ベッドで眠りにつくまで、週末に――味わいながら読みたいおすすめの書籍をライター 温水ゆかりさんがご紹介。
個人的なことは政治的なこと。女性のヴォイスが世の中を変える
長～い題名のこの本の愛称は｢遅（おく）フェミ」。今が息苦しいのは政治的決定の場が男性で占められているからでは？ もっと女性の声を！ てなワケで、和田さんは2003年から議員の男女同数（パリテと言う）を実現する神奈川県大磯町議会へ向かう。
大磯町は駅近で海が広がる明るい町。和田さんは議会を傍聴し、今更ながらに実感する。国は国会議員が総理大臣を選ぶが（議院内閣制）、地方自治体は長も議員も住民が選ぶ（二元代表制）。
余談ですが、二元代表制の理解に最適なのはYouTubeの人気動画、広島県安芸高田市の市長vs議会のバトルだと思う。議員の「市民の代表たる市長は」みたいな渋柿質問に､N.Y.勤務の銀行マンだった若き市長は「市民の代表は議員の皆さん。私は執行部（市政）の代表です」とキッパリ。
大磯町でパリテが実現している「精神的遺伝子」を探して町歩きを始めた和田さんは、ギャラリー経営の女性（昔同じ音楽誌で仕事をしていたことが判明）や、チーズケーキが美味しいカフェの女性経営者、常連客の白杖の女性と親しくなる。
80年代のスクール水着やナゾ校則の撤廃、消費者運動から生まれた某研究所建設反対運動、女性達推し環境派市長の誕生など様々な逸話を通して、足元からムーブメントを起こす精神的遺伝子が見えてくる。違う言葉で言えば民度。女性とお喋りの文化が、この地の民度の高さを支えている。
女性議員、党派を超える正副女性議長、PTA女性会長、議会傍聴を何十年も続ける女性、元教師や経営者など、無名の女性達が自分のヴォイスを表現することって、こんなに愉快で刺激的。出産や保育園も、個人的なことは政治的なこと。自分の生活に必死だからこそ男性優位の仕組みに敏感でいたい。2024年がいい年でありますように！
ドイツ版〈スタンド・バイ・ミー〉。戦時下の熱狂に抵抗した少年少女達
デビュー作『同志少女よ、敵を撃て』で大ブレイクした著者の第2作。1944年、敗戦間近のドイツで鉄路の先に収容所を発見した「エーデルヴァイス海賊団」を名乗る4人の少年少女達。彼らの尊厳と自由を守るために収容所行きの列車に乗せられた人々のそれらも守ろうとする。国が称揚する戦時下の一体感という熱狂、その熱狂に同調しない者を異分子として排除する世間の見て見ぬふり。今の日本への時評も感じられる青春が胸に響く。
トメさん、お手のものの理系解説。絵で即理解する遺伝子やDNAの話
あ～すっきりした。核とかDNAとか染色体などの位置関係が曖昧だったが、絵で見て一発理解。コミックの力はやっぱり凄い。外見の遺伝より体内部の遺伝が気になり始めたトメさんに、双子の研究者が細胞の種類や役割、自己免疫の仕組みなどを解説する。遺伝子の働きが後天的に変化するのにはビックリ。塩基の配列は変わらないが、がん抑制遺伝子のスイッチが生存環境でオフになったりオンになったりするのだとか。図鑑的に永久保存版にしよっと。
