フードスタイリストとして活躍する飯島奈美さんの料理本『LIFE』。この人気シリーズの待望の新刊は、楽しい試みが形になった注目作。2023年6月6日発売の『LIFE 12か月』、その気になる中身はーー。
物語を味わい、料理を味わい。人生を想う
料理には想像力が必要だ。食材、調味料の選び方、切り方から下準備の加減、焼くのか煮るのか揚げるのか炒めるのか…そしてその時間はいかほどにすべきかーー。美味しい一皿が完成するまでの試行錯誤のプロセスには、作り手の想いがたっぷり反映されている。それはさながら、物語のよう。
『LIFE』シリーズの新刊は、飯島さんがレシピを考える以前に、まず12の“物語”が用意された。作家 重松清さんが書きおろした、1月から12月までの季節を織り込み、幾人もの登場人物の生活、人生を紡いだ12か月の物語。その一篇一篇に、食にまつわること、料理を作ることにつながるエピソードが散りばめられているのだ。重松さんの物語にインスピレーションを得て、飯島さんがさらに物語(=レシピ)を生み出していく…。3年がかりで完成したこの本は、重松さんの物語とそれに続けて飯島さんのレシピが紹介された、1冊で二度美味しい書籍なのである。
たとえばーー『雨は先週の金曜日から降りつづいていた。』で始まる6月の物語。同じマンションに住む3人が主な登場人物で、単身赴任で神戸から東京に移り住んだ橋本さんという40歳の男性、就活中の遙菜さんは女子大生、そして連れ合いを亡くしたばかりの比呂美さんは76歳のおばあさん。みんな一人暮らし。一人であるがゆえに、食に対して手間暇かける気力が落ちていて、出来合いのものを買って済ましてしまいがちに。でも…とある夜、マンションのエレベーターに乗りあわせるという偶然が、幸せな連鎖を生む。それぞれ寂しさや悩みを抱えて生活している3人は、自分を元気にするために“料理を作ろう”と思い至り、行動を起こすのだ。
料理をすることで、元気を取り戻した3人、そんな彼らの“物語”に寄り添ったレシピを飯島さんは想像し、工夫し、これだと確信して形にする。各レシピの冒頭には、このレシピにたどり着いた“解釈”の片鱗も窺え知れる文章が添えられていて、それも読み手にとって実に楽しい打ち明け話だ。
重松さんがえがく、誰かの生活、誰かの人生。ほっこりしたり、応援したくなったり、読みながら微笑んでしまったり、涙腺を刺激されたり。生活も人生も命も、英語だと「LIFE」だな、とあらためて感じ入りながら、料理するという営みがもたらす幸福感を想う。
飯島さんが魔法のよう生み出してきた数多くのレシピは、たくさんの人の“作る欲”を掻き立て、胃袋を幸せで満たしてきたことだろう。新しい試みで作られた『LIFE 12か月』は、胃袋だけでなく、心にも響く“味”を教えてくれる。飯島さんと重松さんの“物語”を味わい、きっと料理を作りたくなって、私たちはこのレシピに自分の物語を足していく楽しさにも出合えるのだ。
飯島奈美(いいじまなみ)
フードスタイリスト。フードスタイリングのチーム、セブンデイズキッチン(7days kitchen)を立ち上げ、TVCMなどの広告を中心に、映画、ドラマなどでフードスタイリングを手がけている。
重松清(しげまつきよし)
小説家。出版社勤務ののち独立、フリーランスのライターを経て作家デビュー。2000年『ビタミンF』で直木三十五賞を受賞。著作多数。そのなかにはテレビ・ラジオドラマ、映画、舞台化された作品も多い。
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