美術を面白おかしく、わかりやすく解説する“アートテラー”として活躍するとに~さんによる連載。今回は、著名な現代アーティストの個人美術館をご紹介。
こんばんは。アートテラーのとに~です。先日、とあるトークの仕事でのこと。トークが終わり、一段落ついていると、お綺麗なマダムが僕のもとにやってきました。そして、開口一番に「あなた、マイクを持つ手が美しいわ」と一言。人生で一度も言われたことがない言葉なので、キョトンとしていると、「あなたが話しているところを遠くから見ていたのだけど、あまりにマイクを持つ手が美しくて、それをどうしても言いたくなったの」とのこと。まったく自覚は無いのですが、言われてイヤな気はしなかったので、そのあとしばらくお話ししたところ、別れ際に「トークは、まぁ普通なのね」と言われました。これからは、トークでなく、マイクを持つ手の美しさを武器に頑張っていこうと思います。
さて、日本にはたくさんの個人美術館があります。岡本太郎記念館、すみだ北斎美術館、箱根ラリック美術館、長谷川町子美術館etc. その多くが物故作家、つまり亡くなった方の個人美術館ですが、なかには草間彌生美術館、李禹煥美術館、おぶせミュージアム・中島千波館、今治市伊東豊雄建築ミュージアムなど、現役で活躍する現代作家や建築家の個人美術館もあります。そこで、本日はそんな現代アーティストの個人美術館のなかから、特にオススメの2館を紹介したいと思います!
スタイリッシュな日本画と建築の融合
日本を代表する避暑地・軽井沢に、2011年に開館した軽井沢千住博美術館。日本画を革新するアート界のトップランナー・千住博さんの作品を収蔵展示する美術館です。千住博さんは、1995年のヴェネツィア・ビエンナーレ絵画部門において、東洋人として初めて名誉賞を受賞。まさに世界に誇る日本画家です。千住さんは数多くのシリーズを手掛けていますが、なかでも特に有名なのが「ウォーターフォール」シリーズ。例えば、下の写真の《ウォーターフォール1996》は、立てかけたキャンバスの上から、胡粉(貝殻から作られる白い顔料)を溶いた水を直接流すことで、滝の流れを表現。その斬新な手法は“地球の重力を表現した絵画”とも言われています。
そんな千住さんが「明るく開放的で今までなかったような美術館を」とオファーしたのは、妹島和世さんとのユニットSANAAにて“建築界のノーベル賞”プリツカー賞を受賞した西沢立衛さん。建物内なのに、まるで森の中にいるかのような錯覚を覚える斬新な美術館建築が誕生しました。なお、美術館の床は地形に合わせて、ゆるやかに傾斜しています。このことがまた自然を感じる大きな要因になっているのでしょう。
千住博作品の特徴は、いい意味で主張していない点にあります。館内に常時40点近く作品が展示されていますが、美術館の空間や空気に自然と溶け込んでいます。かといって、個性が無いわけではありません。この絶妙なバランスこそが、千住博作品の魅力。建築の良さを最大限に引き立てています。建築もまた千住博作品の良さを引き立てています。作品と建物が、相思相愛の美術館です。
ちなみに、建物も個性的ですが、美術館を取り囲むガーデンも個性的。カラーリーフプランツに特化したガーデンで、150種類以上もの色とりどりのカラーリーフプランツが植栽されています。10月下旬までが見頃とのことです。
軽井沢千住博美術館
https://www.senju-museum.jp/
天才・ただのりの元気が出る展覧会!!
兵庫県が生んだ現代美術界のスーパースターにして、85歳を迎えた今なお現役で活躍し続ける横尾忠則さん。ご本人より作品を寄贈・寄託されたのを機に、2012年に神戸市に開館したのが横尾忠則現代美術館。今年でちょうど開館10周年を迎えます。日生劇場や目黒区総合庁舎(旧千代田生命本社ビル)で知られる建築家・村野藤吾の設計による兵庫県立近代美術館改め、兵庫県立美術館王子分館の西館をリニューアルする形でオープンした美術館ゆえに、外観こそはそこまで横尾忠則さんのイメージはありませんが。
ひとたび中に足を踏み入れれば、横尾忠則ワールド全開です! 横尾忠則グッズしか売っていないミュージアムショップがあったり、横尾さんの個人コレクションを紹介するギャラリースペースがあったり、最上階には横尾さんらしさ全開の最新フォトスポット「キュミラズム・トゥ・アオタニ」があったり。
実は、こちらの空間の窓から眺められるのは、横尾さん夫妻が新婚時代を過ごしたという青谷町の街並み。その景色を不定形のミラーに反射させ、取り入れつつ、さらに、街並みを写した写真が壁や床にコラージュのように散りばめられています。どれが本物の景色で、どれが鏡像で、どれが写真なのか。感覚がバグってしまうこと請け合いの新感覚のフォトスポットです。また、併設された「ぱんだかふぇ」も、映えスポットとして神戸の若者に大人気とのこと。店名こそ、横尾さん感はないですが、横尾さんがデザインした食器を楽しめるそうです。
そんな横尾忠則現代美術館は現在、開館10周年目記念として『横尾さんのパレット』という展覧会を開催中。横尾さんの作品の大きな特徴にして魅力でもあるのが、その鮮やかな色遣い。そんな横尾さんの作品における色に焦点を当て、作品を色ごとに分類し、展示室をパレットに見立てた展覧会です。
横尾さんが生み出す赤や青、黄色といった強烈な色彩のパワーを浴びれば、疲れやネガティブな気持ちが吹っ飛ぶこと請け合いです。
横尾忠則現代美術館
https://ytmoca.jp/
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