美術を面白おかしく、わかりやすく解説する“アートテラー”として活躍するとに~さんによる連載。今回は、ビギナーでも楽しめる日本美術の展覧会をご紹介。
こんばんは。アートテラーのとに~です。3年ぶりに行動制限のない今年の夏。皆様はいかがお過ごしでしょうか? 自分は、父の実家である長崎の五島列島でお盆を過ごす予定でしたが、いろいろあって今年も見送りました。綺麗な海で泳ぐ気満々でしたのに。せめて海が描かれた絵を観て、気持ちだけでも海水浴を味わおうと思います。
さてさて、話は変わりまして。皆様は、日本画はお好きですか? 西洋絵画や現代アートと比べると「なんかちょっと地味で……」と苦手意識を持っていませんか? 確かに、一見すると地味かもしれませんが、実は奥深い日本画の世界。本日は、日本人なら知っておきたい日本画についてご紹介いたします。
そもそも日本画とは?
日本画と聞いて、雪舟の水墨画だとか、狩野派の豪華絢爛な屏風絵だとか、あるいは、伊藤若冲のニワトリの絵を頭に思い浮かべた方も多いことでしょう。もちろんそれらは日本画ではありますが、描いた当の本人たちは、自分が描いたものを日本画とは認識していませんでした。というのも、日本画という概念が生まれたのは明治時代になってから。西洋絵画が日本に入ってきて初めて、それに対する概念として、「日本画」が誕生したのです。なお、今も昔も、日本人は新しもの好き、海外の文化好き。ロックの文化に出会った若者がこぞってバンドを始めたように、西洋の油彩画にカルチャーショックを受けた当時の若者たちは見よう見まねで洋画を描くように。このままでは日本の伝統的な絵画が廃れてしまう! そんな危機感を持った思想家・岡倉天心が、東京藝術大学の前身である東京美術学校を設立し、若き横山大観や菱田春草ら生徒たちとともに日本画の復興を目指したのです。
では、具体的に西洋の絵画と日本画は何が違うのでしょう。一番の違いは、やはり素材です。
日本画では墨や岩絵具、胡粉(=貝殻から作られる白い顔料)などの天然絵具が用いられます。素材の持ち味を最大限に活かすのが日本画の魅力。そのスタンスは、日本料理にどこか通ずるものがあります。
日本美術の玉手箱や~!
東京美術学校以来のコレクションや歴代卒業生の作品などを収蔵・展示している東京藝術大学大学美術館で、この夏開催されているのが『特別展「日本美術をひも解く―皇室、美の玉手箱」』。東京藝術大学と、皇室に代々受け継がれた美術品を収蔵する宮内庁三の丸尚蔵館。その2大日本美術コレクションを通じて、日本美術の美に迫る展覧会です。
出展作品のなかには、国宝に指定されたばかりの《蒙古襲来絵詞》(宮内庁三の丸尚蔵館蔵、通期展示〈展示替えあり〉)や狩野永徳の《唐獅子図屏風》(宮内庁三の丸尚蔵館蔵、8月28日までの展示)、重要文化財の高橋由一《鮭》(東京藝術大学蔵、通期展示)など教科書でお馴染みの作品が多数含まれています。2022年8月30日から始まる後期展示では、満を持して、伊藤若冲の《動植綵絵》(宮内庁三の丸尚蔵館蔵)も出展される予定です。まさに、日本美術界のスーパースターが勢ぞろい。FNS歌謡祭のような展覧会です。
なお、この展覧会は、日本美術ビギナーの方でも楽しめるよう、随所に日本美術の鑑賞のヒントが用意されています。この展覧会を機に、日本美術デビューをしてみてはいかがでしょうか。
『特別展「日本美術をひも解く―皇室、美の玉手箱」』
会期/2022年8月6日(土)~9月25日(日)※会期中、作品の展示替えおよび巻替えがあります
会場/東京藝術大学大学美術館 本館(東京都台東区上野公園12-8)
https://tsumugu.yomiuri.co.jp/tamatebako2022/
レプリカと言う勿れ
「なせばなる なさねばならぬ~」の格言でお馴染みの米沢藩主・上杉鷹山に関する資料や、上杉家や米沢に関する展示を行うミュージアム、米沢市上杉博物館。こちらでこの夏開催されているのが、『日本画をたのしもう-高精細複製が語る名品の世界-』という展覧会です。綴プロジェクトで制作された高精細複製品を通じて、日本画の魅力に迫る展覧会です。綴プロジェクトとは、京都文化協会とキヤノンが、共催して推進している社会貢献活動プロジェクト。2007年より日本の文化財の高精細複製品を制作し続けています。
複製と聞いて、「なぁんだ、レプリカなのかぁ……」と興味が失せてしまった方もいらっしゃることでしょう。いやいや、ただの複製画ではありません! 本プロジェクトのために開発された和紙や絹本の上に、オリジナル文化財の微妙な色合いや質感を寸分たがわず再現した高精細複製画です! 作品によっては、上から本物の箔も貼っています。素人目にはまったく見分けがつかないレベル。学芸員さんや研究員さんでも、パッと見では本物との違いを見極められないレベルだそうです。
そんな実物と見紛うほどの複製画の国宝・重要文化財がガラスケースに入っていない、むき出しの状態で観られるのが、この展覧会の醍醐味。可能な限り近づいて、日本画の繊細な魅力をマジマジとご覧くださいませ。また、基本的に写真撮影も可能。《上杉本洛中洛外図屏風》や《風神雷神図屏風》も撮影可能です。
なお、展覧会のナビゲーターとして、米沢市上杉博物館のキャラクター、ねこの「はな」やうさぎの「ぷち」、パリ育ちの帰国子女であるひよこの「ぴよ」も参加しています。彼らと一緒に学べば、日本美術にきっと詳しくなるはず。なせばなります。
『日本画をたのしもう-高精細複製が語る名品の世界-』
会期/2022年8月6日(土)〜9月11日(日)
会場/米沢市上杉博物館(山形県米沢市丸の内1-2-1)
https://www.denkoku-no-mori.yonezawa.yamagata.jp/top.htm
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