私たちをエンパワーしてくれる本を、ライターの雪代すみれさんがナビゲート。
「男もつらい」「女性専用車両はどうなんだ」——言い返すことばを教えてくれる一冊
男性と話していて、男女平等の話題になるとなぜかムッとされたり、「男もこんなにつらい」と話をすり替えられたりして、言い返したいけれど言葉に詰まってしまった経験はないだろうか。
ライターとして活動を始める前、匿名ユーザーとしてTwitter上のフェミニズム議論を閲覧していた。様々なフェミニストが痴漢やセクハラを含む性暴力被害、“ぶつかり男”の存在、医学部入試における女性差別、男女の賃金格差などの理不尽な出来事に声をあげていた。
同時に声をあげる人に向かって「女性専用車両やレディースデーがあるから女性は差別されていない」「ただの偶然」「もっと優しい言い方をしろ」「クソフェミ」といった攻撃をしているアカウントが複数見られたが、それらに毅然と言い返すフェミニストたちを見て「かっこいい」と思っていた。一方で、フェミニストを攻撃している人たちが的外れなことを言っているのはわかっていたけれども、どう言い返せばいいかわからなかったし、上手く言い返せる自信がなく、当時はただ見ているだけだった。
ネット上での議論には参加していなかったものの、身近な人に「最近は女性の方が強い」「同じ運賃で女性専用車両があるのは不公平」などと言われたときの落胆は大きかった。目の前の相手との関係を断ち切りたい(断ち切れる)わけではないし、自分の思ったことは伝えたい。しかしどう言えばいいかわからない。そんな悩みを解消してくれるのが『私たちにはことばが必要だ』(イ・ミンギョン 著/タバブックス)である。
日本でも活用できる回答例。「答えない」という選択肢も
2016年5月17日、ソウルの江南である女性が面識のない男性に公衆トイレで殺されるという事件が起きた。女性を狙った事件であることが明らかになると、多くの女性が「被害者は自分だったかもしれない」と感じた。一方で多くの男性から「被害者の性別は問題でない」と女性嫌悪による犯罪ではないとの主張も。本作は事件を機に、周囲の男性からの失礼な質問や図々しい物言いで疲弊している女性たちのために書かれたのであった。
著者のイ・ミンギョン氏は日本の読者に向けて「少し遠く感じるかもしれない」と前置きしたうえで
過激だとか極端だとか言われるのをおそれて女性が言いたいことを言えないという状況は、時間や場所を越えどこででも起きることです(p.7)
と言葉を送っている。
その言葉のとおり、本作に掲載されている具体的なシチュエーションと回答例は、日本で生活するなかでも活用できるものである。例えば「逆差別」に関するもので
「女性専用駐車場はどう説明する?」(p.190)
という質問がある。(※女性専用駐車場:女性ドライバーへの嫌がらせから女性を保護するために設置された)これには回答集の中の
女性専用駐車場がなんで作られたか、知ってる?(p.190)
が返答として使えるだろう。この返答は日本であれば「女性専用車両は男性差別だ」と言われたときに応用できる。
ただ、そもそも本作では答え方を悩む前に「答えない」という選択肢があることを示している。親密な人や、学校や仕事等で頻繁に顔を合わせなくていけない相手の場合、「わかってほしい」という思いから、相手が理解できるまで説明したくなることが今でもある。しかし頑張って説明をしても「自分の周りではそういう悩みは聞いたことがない」「男が全員そうではない」「男も我慢してる」「そんなに感情的にならないで」「あなたの容姿なら被害を心配する必要がない」など理解されなかったり、小馬鹿にした態度を取られたりし、苛立ちや疲労感が残る経験もしてきた人も多いのでは。
意地悪な意図のある質問や、価値のない質問は無視していい。さらに意義のある質問であっても、説明するには膨大なエネルギーを要するため、無理をする必要はないし、会話を始めた後に違和感を覚えたら途中でやめてもいい。理解すべきなのはどちらか。イ氏は述べる。
苦しみに耐えて、努力すべきなのは、あなたではなく「知りたい」と思う側なのです(p.32)
『私たちにはことばが必要だ フェミニストは黙らない』(イ・ミンギョン 著/タバブックス)
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