美術を面白おかしく、わかりやすく解説する“アートテラー”として活躍するとに~さんによる連載。読者の皆さまからの質問も随時受け付けています! 今回は、アートの楽しみが広がる小説作品をご紹介。
注目の直木賞受賞作は女性絵師を主人公にした美術小説!
こんばんは。アートテラーのとに~です。
おかげさまで、先日発売された新著『名画たちのホンネ』が、それなりにご好評いただいているようです。ムンクの《叫び》に描かれた人物に「未成年の主張」をさせてみたり、《風神雷神図屏風》の風神雷神にサンドウィッチマン風の漫才をさせてみたり。いろいろパロディをしてみたのが良かったようです(もちろんちゃんと美術の解説にもなっています)。
そうそう。美術の本といえば、つい先日、第165回直木三十五賞が発表され、澤田瞳子さんの『星落ちて、なお』が受賞作に選ばれましたね!
絵に対するその鬼気迫る姿勢から「画鬼」と呼ばれた河鍋暁斎の娘、河鍋とよ(暁翠)の人生を描いた物語です。偉大な父を持ってしまったがための苦悩や、兄弟との確執、父から受け継いだ画風が時代遅れとされてしまう現実など、家族や時代に翻弄されるとよの姿が丁寧に描かれています。以前、直木賞にノミネートされた『若冲』以来、澤田さんの小説に注目していましたが、5回目のノミネートで受賞とのこと。本当におめでとうございます!
というわけで、本日は、ほかにもまだある“女性絵師を主人公にした美術小説”をご紹介いたします。
あの北斎に「美人画では敵わない」と言わしめた娘の一代記
まずおすすめしたいのは、朝井まかてさんの『眩』(くらら)。葛飾北斎の娘、応為の人生を描いた小説です。2017年には宮崎あおいさん主演で、『眩〜北斎の娘〜』のタイトルでNHKでドラマ化されています。
何より特徴的なのは、圧倒的なリアリティがあること。まるで応為と同時代を生きた人が、本人を見聞きして描いた小説であるかのよう。なんなら、応為自身が、晩年に自分の半生を綴ったかのようでした。それほどまでにリアリティを感じるのは、浮世絵を描くシーンはもちろん、すべての登場人物の江戸での暮らしぶりが、ありありと、かつ丁寧に描かれていたゆえ。人々の生き方に、実に説得力があるのです。
応為の代表作《吉原格子先之図》が誕生するまでのドラマが物語の肝ですが、兄弟子である渓斎英泉とのラブロマンスもおすすめポイント。個人的には、応為以上に、渓斎英泉のほうが魅力的なキャラクターに感じました。かなりのプレイボーイ。江戸のISSA。
主人公は“おきゃん”な江戸っ娘
河治和香さんの『国芳一門浮世絵草紙 侠風むすめ』。こちらは、奇抜で豪胆、自由闊達、反骨の浮世絵師・歌川国芳と、その個性豊かな弟子たちの日常を、国芳の実の娘である登鯉(とり、又の名を一燕斎芳鳥)の視点から描いた物語です。日常を描いたとはいっても、破天荒な国芳と、その弟子たち。普通にほのぼのとした日常であるわけがありません。小さな事件から、切ない事件、やがては社会を巻き込む大事件まで。実にさまざまな騒動が巻き起こります。時代小説と聞くと読みづらそうな印象を受けるかもしれませんが、短編集なのでテンポがよく、漫画のようにサクサク読めますよ。
さらに、主人公の登鯉は、国芳の娘だけあって勝気で生意気。博打も打つわ、刺青に興味津々だわ、強烈な個性の持ち主です。まさに漫画的なキャラクター。シリーズも発刊されており、全5作あります。ハマってしまうと、一気読み必至です。
女性で初めて文化勲章を受章した日本画家の壮絶な人生
最後にオススメしたいのは、宮尾登美子さんの『序の舞』。小説のタイトルと同名の《序の舞》や《焔》といった代表作で知られる女性画家・上村松園をモデルにした物語です。ちなみに、小説内では主人公の名前は、島村松翠となっています。なぜ上村松園でないのか? しばらく読み進めてみて、大人の事情を理解しました。「あっ、これは、実名だと何かしら差し障るな」と。ネタバレになるから、詳しくは言えませんが、昼ドラ並みにドロドロしたエピソードが多々登場するのです。
この小説を読んでから、彼女が描いた美人画を観ると、まぁ深みが増すこと増すこと。単なる綺麗なだけの絵ではありませんね。これほどまでに、彼女の生きざまが現れた作品だったとは!
ちなみに、文庫本でも738ページとかなりのボリュームがあり、正直なところ、読むのは骨が折れます。しかし、それが何だというのです。上村松園の人生は、それよりも数百倍は壮絶なのですから。
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