小説から漫画までジャンルを問わず、本好きとして知られる女優 多部未華子さんの連載「多部未華子がBOOKコンシェルジュ!」。読者からの本選びの相談や質問に応えて、オススメ本をご紹介します。
vol.39 手紙の良さを感じられる、書簡集を読みたいです
《読者からのリクエスト》
先日久しぶりに友人と会うことができ、誕生日のお祝いをしてもらいました。手書きのメッセージカードをもらい、手紙の温かさが心に沁みました・・・。おすすめの書簡集などがあれば、ぜひ教えてほしいです。
《多部さんのオススメは・・・》
“相手を想う時間”が今より長かった時代、「お大事に。」の一言に重みがある
“恋文”というワードにきゅんとして手に取った向田和子さんの『向田邦子の恋文』。脚本家の向田邦子さんが亡くなり、二十年が経ってから妹・和子さんが発見した、姉・邦子さんの人生のパートナーであったNさんへの手紙やNさんの日記、その遺品を見つけた和子さんの当時の心境が書かれている本です。
もちろんノンフィクションなので、人様の日記や手紙を読んでしまっていいのかしら・・・と遠慮する気持ちがありつつも、ついつい熟読。というのも、令和の今と少し昔の昭和の時代では恋人との連絡の取り方も当然違うし、一つひとつへの時間のかけ方も、なんだったら男女間に対する価値観も全く違うものだったからです。当時の大人の恋愛はどんな感じだったのだろうと興味を持ってしまいますよね。
向田邦子さんが脚本家だということも、どんな作品を手掛けていたのかも、有名な作品であれば知っていましたが、人生の終わり方までは全く知らず・・・ページを捲るたびに恋文とは関係のない部分での衝撃も大きく、どんなテレビドラマよりもドラマのような人生を歩んだ方だったのだな・・・と驚きの連続でした。
人生のパートナーであったNさんとの手紙のやり取りは、目を逸らしてしまうほどアツアツな内容・・・なんてことはなく、その日にあった些細なことを綴っていたり、自分の仕事の状況やその日食べたものを書いていて、まるで日記のようなもの。特別心に刺さる一言だったり、きゅんとするような言葉があるわけではありません。
でも、今とは全く違う昭和の時代。当時の連絡手段を改めて考えると、便箋選びから始まり、手紙にしたためる言葉や時間、受け取るまでの時間、相手に届いたかな?と想う時間・・・手紙のやり取りに、今と比べて“相手を想う時間”に遥かに長い時間を費やしていたのだなと思うと、胸がきゅんとします。
「お大事に。」の一言すら重みが違い、日記に思えた手紙のやり取りでさえ、これこそまさに恋文なんだ!!とハッとしました。相手のことを想いながら待つ時間っていいなと思うし、こういう時代に生きていた方達に憧れすら抱いてしまうけれど、年々せっかち度が上がっていて、答えをすぐに見つけ出そうとしてしまう私には、到底真似できないのでしょう・・・(笑)。
今回のオススメ本はこちら!
脚本家への道を歩みはじめ、徹夜続きで仕事に打ち込む姉・邦子を慈しみ支えていた一人の男性がいた――。急逝後に見つかった向田邦子の手紙とN氏の日記、そして妹・和子の回想で綴られた、姉との「最後の本」。
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