小説から漫画までジャンルを問わず、本好きとして知られる女優の多部未華子さん。読者からの本選びの相談や質問に応えて、オススメ本をご紹介します。
vol.13 心を新たに、人生や生活を見つめたい。きっかけになる本を探しています
《読者からのリクエスト》
この一年の間に、この人と結婚するだろうなという男性と別れてしまい、仕事もなんとなく面白く感じられず、どこに進むでもなく、同じ場所で足踏みしている状態です。そろそろここを抜け出して、どこかに向かって歩き出したい。でも、どこに向かえばいいのか。一歩を踏み出すきっかけになる一冊を探しています。
《多部さんのオススメは・・・》
一度立ち止まって、今まで歩んできた道を
ゆっくり振り返ってみては
女性なら誰しも、30歳というのは何かしら大きな区切りをつけたい年齢なのかもしれないですね。結婚とか出産とか、転職とか? 私もそのひとりでした。
私の場合は、結婚も出産も転職も考えられなかったので、ひとつの大きな区切りとして20代最後に歌って踊りまくる本格的なミュージカルへの挑戦を決意しました。
未知の領域に足を踏み入れることによって、30代になった時、精神的になのか、これからの仕事の方向性なのか、心の中にどのくらい変化が生まれるのかなと思い、決めたことでした。
人生を見つめたいというのは、過去を今一度ゆっくり振り返ってみるということなのかもしれませんが、よしもとばななさんの『もしもし下北沢』は、今までの自分を振り返るのにぴったりでした。
この小説、なんだかとても不思議で、下北沢を舞台にした物語としてきちんと進んでいくのに、気がつくと自分の地元の街並みが思い浮かんでいるんです。読んでも読んでも、下北沢が自分の故郷の街並みに脳内変換されてしまい、家族のことや通っていた学校、近所のコンビニまでを思い出しました。すごく仲良くて毎日のように遊んでいた友達のこととかも。
たまに私も実家方面に帰るのですが、以前まであったお店が無くなって、まったく違う新しいお店になっていたりすると、センチメンタルな気持ちになります。
当時のままで止まっている私の記憶と、変わった街並みと。当たり前だけど、時間は進んでいくんだなって。
主人公が父親を失なったように私も両親ともいつまでも一緒にいられるわけではないですからね。私が高校生の時に、母親が大病したことがあって。集中治療室で酸素マスクをして話せなくなっている状態を目の当たりにした私は、家に帰る道中、電車の中でひとりで大泣きしたことを思い出しました。
いつか居なくなる存在なんだなと、その時初めて強く感じた瞬間でした。父親は元気そうですが。
30代の私の目標のひとつが、とにかく親孝行です!
小説ってフィクションだけど、この小説はとても他人事とは思えなくて、身近に感じられる不思議な本でした。
一度立ち止まって、自分の今まで歩んできた道をゆっくりと本を読みながら振り返ってみてはいかがでしょうか。
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