多くのトピックスで湧いた第38回東京国際映画祭。そのなかの公式プログラムとしてグローバル・ラグジュアリー・グループのケリングが開催したイベントをフィーチャー。トークを通して得られる共有、そして共感。注目すべきその内容はーー。【連載「青木貴子のラグジュアリー案内」】
ケリングが主催する「ウーマン・イン・モーション」に共感

ラグジュアリーでスタイリッシュ、私たちを魅了するハイブランドのファッションアイテム。見ているだけでうっとりとした心地にしてくれるし、身につけると高揚感とパワーを与えてくれる特別な存在です。グッチ、サンローラン、ボッテガ・ヴェネタ、バレンシアガ、マックイーン、ブシュロン、ポメラートなどの錚々たるブランド、実はケリングという同じグループに属しています。
ケリングはファミリーが率いるグローバル・ラグジュアリー・グループ。クリエイティビティを戦略の中核に掲げ、クチュール&レディ・トゥ・ウェア、レザーグッズ、ジュエリー、アイウェア、ビューティなど多岐にわたるラグジュアリーブランドがさらにその創造性を高められるようサポート、未来のラグジュアリーをサステナブルかつ責任ある形で受け継いでいくことの実現を信念としているのだそう。また、女性に対するコミットメントや取り組みをグループの優先事項の中心に据えています。
そんなケリングが取り組んでいるのが「ウーマン・イン・モーション」というプログラム。カメラの前と後ろで活躍する女性をフィーチャーすることで、芸術や文化の世界にある男女間の不平等を是正していこうという主旨のもと2015年にスタート。「ウーマン・イン・モーション」アワードでは功績ある女性を表彰したり、新しい才能を発掘するなど女性の活躍を支援しています。

日本でも2017年から映画・テレビ業界関係者が登壇する「ウーマン・イン・モーション」トークというイベントが開催されていますが、今年のゲストはアメリカからハリウッド映画を中心にキャスティング・ディレクターとして活躍するデブラ・ゼインさん、俳優の高畑充希さん、俳優・アーティストの中島健人さん、映画プロデューサーの福間美由紀さんという顔ぶれ。映画に登場する女性像の変遷や、映画制作を通しての女性の立場や現状・今後の展望に関して熱いトークが繰り広げられた興味深いイベント、ケリング「ウーマン・イン・モーション」トークを観覧してきました。

男女差ということで自然摂理的にいちばん違いがあり、直面する問題が出産や子育て。今まさに出産を控えているゲストの高畑充希さんは、これからいろいろな現場で様々なことに直面していくんだろうな、という思いを語っていましたが、トークのなかで最近の撮影現場ではキャストが子供を連れてきて預けられる託児場のような場所が設けられるようになったり、一緒に食事を取れるスペースが設けられるなど育児に協力的な現場が増えてきているということが話題に。結構子育てに優しい環境が映画界では開かれてきているんだなと正直驚きました。しかしながらプロデューサーの福間さんの語る海外事情にはさらに感嘆!
2018年に福間さんがフランスの映画制作に関わっていたときのエピソードですが、なんと撮影時間は1日8時間まで、土日は休みというルールが定まっていたというのです。これは素晴らしい取り組み。きっと自らの権利を主張する当事者と、その環境を作り出す経営陣や製作陣のお互いへのリスペクトや歩み寄りの結果なんだろうなと思いました。日本より、その辺りは海外の方がはっきりしていそうです。

福間さんは「社会保障がしっかりしていることで、女性でもキャリアを続けることができるんです。日本では、生活を犠牲にせざるを得ないことがあまりに長く続いてきました。今、そんな日本でもルールが設けられるようになったりと、変わろうとしているなかにいます。意識をアクションに変えていく最中です」と力強く発言さていました。環境を嘆くのではなく、誰もが声を上げることの大切さを説いていらして本当にそのとおりだな、と思いました。声を上げないことには誰も気が付かないし、問題があっても受容するしかない。でもアクションを起こすことで全ては変化させることができる。ああ、これは映画界という遠く離れた世界の話ではなく、私たちを取り巻く社会環境とイコールの話だなと興味深く聴き入りました。
芸術や文化を通して女性の地位向上をサポートするケリングの「ウーマン・イン・モーション」というプログラムですが、映画界の現状は私たちが直面している社会の状況ともリンクしています。文化と芸術の現場というフィルターを通して、女性に光を当ててくれる活動は、全女性がよりよく生きるための生き方を促してくれているように感じました。大きな母体だからこそ、その影響力は大きく、私たち女性に光を当ててくれるありがたい取り組み。感謝の意味も込めて何か素敵なものを買わなくては、なんて気持ちにもなりました(これは大義名分かも。笑)。
ケリング「ウーマン・イン・モーション」は10年の節目を迎え、国内外ともに多くの人々からの賛同を受け、女性のみならず男性の賛同者も増え、ますますそのウェーブは大きく広がっているのだそう。私たちが生きやすい場が築かれていることに喜びを感じるとともに、性差を超えてリスペクトし合う美しい世界の実現が見えてきて、未来は明るいなと思った次第。ケリングの素敵な取り組みに今後も注目してまいりましょう!

