2023年12月末〜2024年1月中旬公開の映画から、映画ライター渥美志保さんがおすすめの3作品をご紹介!
『PERFECT DAYS』
今の日本に生きる、寄る辺なき人々の人生
公衆トイレ清掃員の男の一日は、神社を掃く竹箒の音で夜明けから始まる。小さな植木に霧を吹き、洗顔して口ひげを丁寧に整えたら、駐車場の自販機で缶コーヒーを買って、都内に点在する現場へ向かう。神社の境内でコンビニの昼食を取りながら、見上げる木漏れ日をカメラに収める。仕事の後の楽しみは銭湯と一杯飲み屋。夜は布団の中で古本を読みながら眠りに落ちる。
繰り返されるミニマルかつ清貧な日常は、だが一日として同じ日はなく、男は小さな出来事に心を揺らす。どうやら男は何らかの理由で自身の人生から降りているのだが、具体的説明がないがゆえに、観客は男の悲喜こもごもに自身の人生を重ねてしまう。何しろ役所広司の演技がすごすぎる。セリフは極めて少なく表情もわずかしか動かないが、男の幸せも不安も痛いほど伝わってくる。笑顔か泣き顔か分からないラストの表情にもし涙が出ないなら、ほんとうの意味でのあなたの人生はまだ始まっていないのかも知れない。
『PERFECT DAYS』
監督/ヴィム・ベンダース
出演/役所広司、柄本時生、中野有紗、アオイヤマダ、麻生祐未、石川さゆり、田中泯、三浦友和ほか
※TOHO シネマズ シャンテほか全国公開中
https://www.perfectdays-movie.jp/
『宝くじの不時着 1等当選くじが飛んでいきました』
タイトルから爆笑の韓国No.1ヒット作
風に飛ばされてきた1等当選の宝くじを偶然手にした国境監視所の韓国兵チョヌ。だが興奮もつかの間、当選くじは再び風に奪われ国境を超え、北の兵士ヨンホの手に。密かに会合し押し問答の末に「山分け」で合意した南北の兵士たちは、信用保証としてチョヌとヨンホを交換し人質とすることに……。極秘の大ラッキーにウキウキとコソコソのあまりに挙動不審すぎる兵士たちを、ドラマでお馴染みの芸達者たちが演じ爆笑に次ぐ爆笑。面白い映画に必ずしも大スターは必要ないことを証明した大ヒット作。
『宝くじの不時着 1等当選くじが飛んでいきました』
監督/パク・ギュテ
出演/コ・ギョンピョ、イ・イギョン、ウム・ムンソク、パク・セワン、クァク・ドンヨンほか
※12月29日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開
https://takarakujimovie.com/
『僕らの世界が交わるまで』
こじらせ母子の空回りと和解
DV被害の支援者エヴリンと、動画配信に夢中の高校生ジギーは、互いに理解不能で口論ばかりの母子。エヴリンはある被害者の息子カイルに「理想の息子像」を見て何かと世話を焼き始める。一方、ジギーは社会意識の高い同級生ライラの気を引こうと、付け焼き刃の知識で近づくが……。「自分の“良かれ”が他人に歓迎されるとは限らない」という真理を空回りしながら経験する二人の姿は痛々しくもコミカル。実は互いを求めている似た者同士の「こじらせ母子」のラストの和解も、じんわりと心に残る。
『僕らの世界が交わるまで』
監督・脚本/ジェシー・アイゼンバーグ
出演/ジュリアン・ムーア、フィン・ウォルフハード、アリーシャ・ボー、ジェイ・O・サンダース、ビリー・ブリックほか
※2024年1月19日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開
https://culture-pub.jp/bokuranosekai/