もうすぐ秋の始まり。ということで“芸術の秋”、新しい体験をしてみたくなる季節の到来だ。見逃せない演目が上陸する今秋こそ、あなたの人生観を変えるオペラ鑑賞をリコメンド!
オペラを一度も観たことがないなんて、損してる!
オペラって何だか難しそう、堅苦しそう、楽しめないかも。ーーそう思い込んでいる人はきっとたくさんいるのではないかと思う。でも、もしそれが本当に事実だとしたならば、こんなにも世界中にオペラファンが存在するだろうか。
コロナ禍、猛暑…煩わしいことから解き放たれて、久しぶりに自由を満喫できそうな2023年秋。この実り多き季節に、何か新しいことを自分のなかに取り込み、心にたっぷりと栄養分を与えてくれる“美味しい果実”を味わいたいもの。ならばぜひ、オペラデビューをしてみてほしい。
長い歴史に育まれ、たくさんの人の手で精魂込めて作り上げられてきたオペラなる芸術は、奥深く、刺激的で、じっくりと咀嚼してその味わいを堪能すべき、濃厚な果実なのだ。
豪華絢爛な舞台装置と衣装、オーケストラによる臨場感あふれる演奏と、何よりも歌い手たちの魂をゆさぶるような歌声は、ライブでこそ知り得る迫力と感動。原語上演でリアルな息吹を感じ取り、ステージサイドに表示される字幕でセリフを把握。舞台は、テレビよりリアルに、映画よりダイレクトに、物語の世界に没入させてくれる。
ものより体験。食わず嫌いをして、自分の心に潤いや喜びをもたらす機会を逃している場合ではありません!
では、さっそくメモのご準備を。あなたに新体験をもたらす絶好の機会が訪れるのは、11月。イタリア最高の歌劇場のひとつ、ボローニャ歌劇場が来日する。
ボローニャといえばイタリア北部、エミリアロマーニャ州の州都で“美食の街”として知られるところ。そして、世界最古といわれる大学(ボローニャ大学)やボローニャ音楽学校の存在もあり、芸術と学問の街として記憶している人も多いかも。
そんな文化都市で1763年に創設された歴史あるボローニャ歌劇場から、総勢210名(予定)が大移動してくる“引っ越し公演”。オペラファンならずとも見逃せない、この秋の注目イベントなのだ。
ボローニャ歌劇場の日本公演、気になる演目は…
日本公演は11月2日の東京公演を皮切りに、高崎、名古屋、岡山、大津、大阪と巡回。そしてふたつの演目が披露される。
プッチーニ『トスカ』
オペラの歴史に名を残す作曲家 プッチーニの『トスカ』は、彼の作品群のなかで“最も悲劇的なオペラ”といわれる傑作。「歌に生き、愛に生き」「星は光りぬ」などのアリア(独唱曲)で魅せる名曲も有名で、舞台の見せ場も多くて飽きることがない。とはいえ、オペラビギナーは簡単なあらすじと、その舞台のトピックを知っておけば十分に楽しめるのでご安心を。
『トスカ』のあらすじ
舞台は、1800年ローマ。画家カヴァラドッシが政治犯の友人を匿い、カヴァラドッシの恋人トスカは彼の行動を疑ってしまう。警視総監スカルピアは、トスカの嫉妬心や愛を利用して、二人を窮地に追いやろうと企み、政治犯を匿った罪で捕らえられ処刑されることになったカヴァラドッシの命と引き替えに、トスカの体を要求。トスカは反撃してスカルピアをナイフで刺し殺してしまう。一度はその策略から逃れたように見えたが、空砲での見せかけの処刑は実弾で行わる。カヴァラドッシは倒れトスカが声をかけても動かない。絶望したトスカも彼の後を追い、城の屋上から身を投げる。
ボローニャ歌劇場 来日公演リリースより
今回の『トスカ』の上演で話題になっているのが、ウクライナ出身のオクサーナ・リーニフが指揮をとること。彼女はイタリアの主要歌劇場初の女性音楽監督で、オペラ界の注目を集める逸材。
リーニフは、2021年12月英国ロイヤル・オペラ・ハウスで上演された『トスカ』を指揮し、“エレガントでなおかつダイナミックな世界を表現した”と高評価を得て話題に。日本で披露される同タイトル、どんな進化がもたらされているのか期待大!
もちろんキャストもそうそうたるメンバーで、トスカ役は現地公演でも実績のあるマリア・ホセ・
シーリ、そしてカヴァラドッシ役は世界トップクラスのテノール歌手として人気のマルセロ・アルバレス。ほかにも世界最高峰の歌劇場で客演してきた実力者がずらり。
ベッリーニ『ノルマ』
もうひとつの上演作品は、品格ある美しい作品を世に残したベッリーニの代表作「ノルマ」。巫女が道ならぬ恋に陥り、失望と苦悩の末に火刑台に消えるまでを描いたドラマティックな物語は、愛憎と友情が幾層にも絡み合い、観る者の感情を揺さぶってくる。
『ノルマ』のあらすじ
オペラ評論家/香原斗志(ボローニャ歌劇場 来日公演リリースより)
〈第1幕〉ローマの支配下にあるガリア地方のケルト人は反撃の機会を狙っているが、彼らの精神的支柱であるドルイド教の巫女長ノルマは、ローマの総督ポッリオーネとの間に密かに二人の子供をもうけている。だが、ポッリオーネはノルマへの愛は冷め、若い巫女アダルジーザに夢中なのだと語る。人々が集まると、ノルマが登場して神に祈りを捧げながらも、自らの使命と秘めた愛との間の葛藤を歌う。アダルジーザがノルマのもとを訪れて禁断の恋の悩みを語ると、最初は、ノルマは自分の体験と重ねて同情するが、そこにポッリオーネが現れ、彼が相手だと知ると激怒する。
〈第2幕〉ノルマは就寝中のわが子を殺そうとするができない。アダルジーザに、自分は死ぬつもりなのでポッリオーネのもとにわが子を連れていき、ポッリオーネと結ばれて子どもを守ってほしいと頼む。感動したアダルジーザは、ノルマのもとに戻るようにポッリオーネを説得すると約束する。ノルマの父であるドルイド教の首長オロヴェーゾは、ローマに反撃したい兵下たちを、時期を待つように説得している。一方、ノルマは恋人が戻るのを心待ちにしていると、アダルジーザの説得が不調に終わったと知らされ、怒り狂って人々を集め、ローマを殲滅せよと命じる。そこに捕えられたポッリオーネが連行される。ノルマは人払いをしてポッリオーネに、アダルジーザをあきらめれば助命すると伝えるが、彼は拒否。怒ったノルマは人々を集めるが、自分の裏切りを告白。わが子を父親に託して、ポッリオーネとともに火刑台に進む。
巫女という神聖であるべき立場にいながら、ひとりの男を愛するがゆえに愚かで自己本位な人間的側面を露呈するノルマ。この役は数あるオペラの役のなかでもひときわ高い表現力が要求され、作品の良し悪しを左右する難役といわれるもの。
日本公演でノルマ役に臨むのは、実力派ソプラノ歌手のフランチェスカ・ドット。
すでに同劇場のローザンヌ公演でノルマを演じ、拍手喝采を浴びている彼女。凛としたパワーを感じさせる美しい佇まいは、まさしくノルマそのもの。
そしてさらなるトピックが、ノルマの恋敵となるも紆余曲折の挙句に友情が芽生える年下の女性アダルジーザ役を、日本人オペラ歌手の脇園彩が演じること。
ノルマが全身全霊をかけて愛する男 ポッリオーネの心を魅了し、彼を愛するも、ノルマの心情に動かされて身を引く行動をとるアダルジーザ。繊細かつ秘めた強さを持つこの役を脇園彩がどう演じるか、大いに注目したいところ。
ローマ帝国、ガリア地方の総督ポリオーネ役はラモン・ヴァルガス、指揮はファブリツィオ・マリア・カルミナーティと、オペラファンにはお馴染みの名前が並び、見応え満載のステージになることは確実。
『トスカ』と『ノルマ』、本場のオペラの魅力に出合える絶好の機会。この秋のオペラデビュー体験、ぜひあなたのスケジュールに組み込んでほしい。
ボローニャ歌劇場来日公演情報
プッチーニ『トスカ』
東京文化会館大ホール
公演日/2023年11月2日(木)18 :30開演、11月4日(土)15 :00開演
入場料/S席 ¥38,000、A席 ¥32,000、B席 ¥26,000、C席 ¥21,000、D席 ¥16,000(すべて税込)
高崎芸術劇場
公演日/2023年11月7日(火)18 :30開演
入場料/SS席 ¥24,000、S席 ¥19,000、A席 ¥15,000、B席 ¥11,000、C席 ¥7,000(すべて税込)
※キャストは東京と異なります。
ベッリーニ『ノルマ』
東京文化会館大ホール
公演日/2023年11月3日(金・祝)15 :00開演、11月5日(日)15 :00開演
入場料/S席 ¥38,000、A席 ¥32,000、B席 ¥26,000、C席 ¥21,000、D席 ¥16,000(すべて税込)
コンサート・ドアーズ
03‐3544‐4577(平日10時~18時)
www.concertdoors.com