2023年7月末〜8月公開の映画から、映画ライター渥美志保さんがおすすめを3本セレクトしてご紹介!
『バービー』
バービー人形が現実世界で見つけた自由とは?
すべてが完璧にハッピーなバービーランドで暮らすバービーは、突如、心身に起こった異変の理由を探るためにどんより暗い「現実世界」へ。全身ピンクの彼女は、なぜかついてきちゃった恋人ケンとともに浮きまくり騒動を巻き起こす――のだが、その過程で「本当の自分」を見つけるのは自明の理だ。何しろ監督は『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』のグレタ・ガーウィグなのだから。
バービーが生まれたのは1959年。「女の子用の人形=赤ちゃん」が普通だった当時、「セクシーな大人の女性」の人形が大ヒットしたのは、そこから始まる60年代の「女性解放運動」(学問と妊娠中絶の権利を一部勝ち取った)と無関係ではないだろう。自己投影の対象としてのバービーが、ルッキズムと批判されながらも今も人気を保っているのは、時代によって更新され続ける女性の自由と多様性を意識し続けているからだ。映画がその最高のアンサーになることを期待したい。
『バービー』
監督/グレタ・ガーウィグ
出演/マーゴット・ロビー、ライアン・ゴズリング、ウィル・フェレル、シム・リウ、ケイト・マッキノン、エマ・マッキーほか
※8月11日(金)より全国公開
https://wwws.warnerbros.co.jp/barbie/
『イノセンツ』
不思議な力を持つ子供たちの無垢と残酷
大きな団地に引っ越してきたイーダとその姉で自閉スペクトラム症のアナは、先に団地に住んでいたベンと、母子家庭のアイシャと友達に。やがて4人でいるときに増幅する不思議な力を持つことがわかり……。親の関心を独り占めにするアナに嫉妬するイーダが境界線で揺れる様や、子供の遊びだった力が、子供ゆえの無邪気な残酷さで制御不能な事件に発展。一般的な超能力ものとは一味違う不気味な静けさで高まっていく緊張感や、ラストがほのめかす子供だけがつながれる世界観も秀逸。
『イノセンツ』
監督・脚本/エスキル・フォクト
出演/ラーケル・レノーラ・フレットゥム、アルヴァ・ブリンスモ・ラームスタ、ミナ・ヤスミン・ブレムセット・アシェイムほか
※7月28日(金)より新宿ピカデリーほか全国公開
https://longride.jp/innocents/
『658km、陽子の旅』
「痛い」と言えぬまま、忘れ去られた人たち
就職氷河期世代の地方出身者で42歳未婚、非正規の在宅仕事でほぼ引きこもりのような生活を送る陽子は、その惨めさや痛みから目を背けるうちにすべてに無感覚になっている。映画はそんな女が、父の訃報を受けて22年ぶりに故郷・青森に帰る道程を描く。それも、スマホもなく現金もなく、ヒッチハイクで。他者との触れ合いで彼女が取り戻す人間的感情は「痛み」だ。「痛い」と言えなければ、傷を癒すタイミングは決して訪れない。忘れられた被災地の風景、その痛みにもまた胸を突かれる。
『658km、陽子の旅』
監督/熊切和嘉
出演/菊地凛子、竹原ピストル、黒沢あすか、見上愛、浜野謙太ほか
※7月28日(金)よりユーロスペース、テアトル新宿ほか全国順次公開
https://culture-pub.jp/yokotabi.movie/