映画ライター渥美志保さんによる連載。ジャンル問わず、ほぼすべての映画をチェックしているという渥美さんイチオシの新作『靴ひものロンド』をご紹介。
結婚とは?愛とは?不倫のリアル
1980年代のナポリで幼い二人の姉弟を育てる母ヴァンダは、ローマの放送局で働くラジオジャーナリストの夫アルドから、突然「別の女性と関係を持った」と告白されます。映画はそこから始まる家族の混乱の歴史を描いてゆきます。
「嘘はつけない」とか言いながら女性との関係を告白するアルドは、優柔不断で身勝手なタイプ。浮気相手は若い同僚で、自分の浮気を棚に上げて「ここは息が詰まる、牢獄だ」と言いながら、ローマで恋人と一緒に暮らし始めます。そもそも神経質で辛辣な性格のヴァンダは、アルドの浮気で傷つき、混乱の末に自殺未遂を図ります。彼女の残酷さは、子供たちに夫とのいさかいを見せ、時に巻き込んではばからないこと。特にかわいそうなのは長女アンナで、両親の間に緊張が走ると「部屋に戻っていい?」ととっさに言ってみたり。父親からのプレゼントに、ヴァンダが「あの女が選んだものなんて!」と言いがかりをつける場面なんて、見てるこっちがたまりません。
子供たちが成し遂げるラストが衝撃的!
未婚の私は、こんな結婚はさっさと終わらせるべき!と断然思ってしまうのですが、この映画にびっくりしちゃうのは、時が飛んで数十年後、夫婦はいまだに夫婦であることです。アルドの身勝手ぶりがわかるこのあたりのくだりを見ると、もうまさに「割れ鍋に綴じ蓋」という感じ。何なのこの夫婦!とイライラするわけですが、この後に実にスカッと痛快なラストが待っています。
タイトルにある「靴ひも」は、この家族はみんなちょっと変わった靴ひもの結び方をするんですね。別に教えたわけでもないのに、知らず知らずのうちに同じことをしてる、家族ってそういうものですよね。身勝手な両親に振り回されて生きてきた子供たちは、両親なんて本当にうんざりなのに、ふと自分に目を向けると、両親の大嫌いな部分そっくりそのまま受け継いでいたりします。
そういう部分も含めて、さんざっぱら振り回されてきた子供たち。彼らが一矢報いるラストを、ぜひお楽しみください。
『靴ひものロンド』
監督・脚本/ダニエーレ・ルケッティ
原作/ドメニコ・スタルノーネ「靴ひも」(関口英子訳、新潮クレスト・ブックス)
出演/アルバ・ロルヴァケル、ルイジ・ロ・カーショ、ラウラ・モランテ、シルヴィオ・オルランド ほか
https://kutsuhimonorondo.jp/
2022年9月9日(金)、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー
© Photo Gianni Fiorito/Design Benjamin Seznec/TROIKA ©2020 IBC Movie
渥美志保の記事をもっと読む。