映画ライター渥美志保さんによる連載。ジャンル問わず、ほぼすべての映画をチェックしているという渥美さんイチオシの新作『メタモルフォーゼの縁側』をご紹介。
17歳と75歳の素敵な友情
ものすごーく昔、私の周囲にはある韓国のアイドルグループのファンがたくさんいて、集まるたびにキャッキャと盛り上がりました。その中には「外の世界ではファンだということを隠している」という人もいて、へー、と思ったのを覚えています。今となっては、そんな時代もあったのね……と隔世の感がありますが。別にファンでもない私がそういう集団に属することができたのは、私は「何かに夢中になってる人」が大好きで、「え、なんで? すごくいいじゃん」と常に肯定するタイプだから。
この映画の主人公、17歳のうららと、75歳の雪の関係も、そんな感じで始まります。うららはBLが大好きだけど、周囲には堂々と言うことができません。そこに現われたのが75歳の雪。「絵がきれいだったから」とBLを手に取った雪は、「読んでると、がんばれ、幸せになれ!って、二人を応援したくなっちゃうのよね」とまったくもって素直な気持ちでうららの思いを代弁。そのことを通じて、うららが自分を肯定されたような気持ちになったのは、まったくもって当然のことのように思えます。
ふたりが会うのは、たいていが雪の家の縁側です。縁側で並んで座り、お茶とお菓子を食べながら、きゃっきゃとBL話で盛り上がる姿がかわいく、趣味を通じてつながれたら年齢なんて関係ないんだと実感します。この季節にこの映画を見ると、縁側、いいなあ、羨ましいなあなんてことも思ったり。夏の夕暮れに、庭を眺めながら、外の光と風を感じながら、ビールでも飲んだら最高だろうなあ、なんて妄想してしまいました。
何かに夢中になることは、パッと見では「無意味なことに時間とお金をつぎ込んで」なんて思えたりもするのですが、そのエネルギーから別の何かが生まれる可能性に満ちています。例えばKポップアイドルが好きすぎて、韓国語がしゃべれるようになった人ってものすごく多いですよね。もちろんしゃべれるようにならなくてもいい。つまり言いたいのは、そこを起点に、これまでとは違う新しい世界が見えてくるってこと。映画が描くのはそういう世界で、人生に無駄なことなんて一つもないんだなと思えます。
そうやってつながった二人の友情が素敵なのは、お互いの立場を理解し思いやりながら、つながっていることです。恋人でも友達でも「ずっと一緒にいること」だけに価値があるわけじゃないし、一緒にいなくたって繋がることはできますよね。どちらかがどちらかに合わせる、合わせられないなんて気持ちが足りない、そんな風に断じない世界もすごく心地いいなと思います。
『メタモルフォーゼの縁側』
監督/狩山俊輔
出演/芦田愛菜、宮本信子ほか
https://metamor-movie.jp/
6月17日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
(c)2022「メタモルフォーゼの縁側」製作委員会
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