映画ライター渥美志保さんによる連載。ジャンル問わず、ほぼすべての映画をチェックしているという渥美さんイチオシの新作『チェルノブイリ1986』をご紹介。作品の見どころについてたっぷりと語っていただきました！
平穏に暮らせる尊さを噛み締めて
消防士アレクセイは10年前に自然消滅の様に別れた元恋人オリガと再会、悪びれもなくデートに誘います。アレクセイは多くの女性を魅了するイケメンで、オリガは逡巡しながらも久々のデートを楽しみながら、でも元の関係に戻ろうとするアレクセイを決して受け入れようとはしません。彼女は実は10年前にアレクセイの子供をひとりで産み、育てているんですね。事実を知ったアレクセイは「一緒に生きよう」と言い出すのですが、裏切られ続けてきたオリガとしては当然「そんなん信じられるわけないし」って話。アレクセイは本気を見せるべく、現場からの異動を願い出て、明日には3人で地方都市プリピャチから大都市キエフに……というその日に、地元のチェルノブイリ原発で爆発事故が起こります。
今も続くウクライナの戦争、その報道の中で「チェルノブイリ」の名前を初めて聞いた20～30代って多いかもしれません。チェルノブイリ原発は、現在のウクライナとベラルーシの国境近くにある原発で、福島より20年以上さかのぼった1986年に爆発事故を起こしています。映画はこの事故を下敷きに作られています。ドラマの見どころは、原発事故で起こる様々な異常事態、とでもいいましょうか。爆発、そして爆発現場の混乱、「放射性物質」「放射能」に対する情報を持たない人々の無防備な行動、よくわからないままバタバタと死んでゆく人たち、着の身着のままで強制的に故郷を追われる人たち、緊迫する医療現場、現場で被ばくした人々の姿。そしてどんどん事態が悪化する中、アレクセイは「どう考えても無事では済まない」という任務を、家族のために引き受けることになります。
ハリウッド型エンタテインメントとしてよくできた作品で、ピンチに次ぐピンチ、スリルとサスペンス、愛と涙の連続です。チェルノブイリを知るきっかけとしては申し分ありませんが、もし興味があれば、Amazonプライムで配信中のドラマ『チェルノブイリ』でこの先をご覧になってもらえたらなと思います。この作品で描かれる事後処理は、本当にさわりだけ。ドラマでは、この先も延々続く「どう考えても無事では済まない」任務と、事故が起きた原因にも迫る一気見必至の傑作です。
ちなみにこの時に最も大きく被災したのが、ウクライナとベラルーシ、そしてロシアで、その当時この3か国は「ソビエト（連邦国家）」の一部、つまり同じ国だったのですが、91年にソビエトが崩壊しそれぞれに独立国家に。事故はこのソビエト崩壊の遠因にもなっています。
『チェルノブイリ1986』
製作・監督・主演／ダニーラ・コズロフスキー
出演／オクサナ・アキンシナ、フィリップ・アヴデエフほか
https://chernobyl1986-movie.com/
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5月6日（金）新宿ピカデリーほか全国公開
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