日本で「難民であること」の苦境とは

映画ライター渥美志保さんによる連載。ジャンル問わず、ほぼすべての映画をチェックしているという渥美さんイチオシの新作『マイスモールランド』をご紹介。作品の見どころについてたっぷりと語っていただきました！

マイスモールワールド

想いだけでは守れない日常と、理不尽な社会

幼いころに両親とともに故郷を離れ、来日したクルド人のサーリャは、日本で暮らす高校生。亡くなった母親に代わり家事を引き受け、妹と弟の面倒をみて、さらに日本語をうまく話せない同胞にことあるごとに頼りにされている、まさに長女！というしっかりものの女の子です。勉強も頑張っていて成績もすごくいい彼女は、日本の大学に進学しようと思っていて、コンビニでバイトしながら学費をためています。

そんなある日、父親の難民申請が却下され一家は在留資格を失い、父は入国管理局に拘束されてしまいます。サーリャも働くことを禁じられ、さらに入管法の規定により、住居のある埼玉県から出ることも禁じられてしまいます。
マイスモールワールド
映画は、日本で「難民であること」の苦境を描いてゆきます。日本の難民認定に対する国内外からの批判は、入国管理局によるスリランカ人のウィシュマさん虐待死事件とともに注目を集めてきましたが、ここで描かれるのは施設の外の問題。単純に「これではどうしたって生きていけない」と思うようなことばかりで、日本の入国管理行政の外国人に対する冷たさ、というより非人道性がひしひしと伝わってきます。

日本語だって普通に話すことができ、もはや日本で過ごした日々のほうが長い（でも、妹弟よりは故国を知っている）のに、いつまでも「異物」のように扱われる社会の中で、自分のアイデンティティに対する複雑な思いにも胸が痛みます。特に「国を持たない最大民族」といわれるクルド人は、外の世界に興味がない人たちが大半の日本人社会で、ほとんど存在を認知されません。どこの国の人？と聞かれるたびに、彼女が「ドイツ人です」と笑ってごまかすのも、胸がすごく痛みます。
マイスモールワールド
この映画で描かれるサーリャの父親をはじめ、「難民」と呼ばれる多くの人たちは、国に帰れば死ぬしかないという状況にあります。でも日本はそうした人たちのほとんどを「難民」と認定せず、在留資格を認めていません。この映画に登場したクルド人をはじめ、ミャンマー、シリア、チェチェンなども同じ状況ですが、受け入れを認めているのはウクライナだけ。すごく人種差別的なのですが、そのウクライナ人の受け入れですら「難民認定の枠外の特例」です。映画はその実態を、行き場も拠り所も次々と失ってゆく少女の思いを通じて描いてゆきます。ちなみに、'19年は約1万人が、コロナ禍の影響で減少した'20年は約4千人が日本で難民申請していますが、認定されたのはどちらも50人に届きません。