映画ライター渥美志保さんによる連載。ジャンル問わず、ほぼすべての映画をチェックしているという渥美さんイチオシの新作『幸せの答え合わせ』をご紹介。作品の見どころについてたっぷりと語っていただきました！
心が砕け散る別離から､立ち直るには
ずーっと続くと信じていた関係が、ある日突然終わる――そういう経験は誰にでもあると思います。夫婦とか恋人同士の別れだけじゃなく、たとえば学生時代の友達とか、親子といった肉親でも、そういうタイミングがあるかもしれません。
映画の主人公グレースが経験するのはまさにそういう青天の霹靂。長年連れ添った夫エドワードが、突如「もう限界」と言って家を出ていく、おまけに新しい恋人までいる。映画が描くのは、そこからの立ち直りの物語です。
グレースはかなり喜怒哀楽が激しく言葉ですべて表現する性格で、エドワードはあまり感情の起伏がなく、あっても口には出さないタイプです。想像するに出会った頃の二人は、だからこそ「相性ぴったり」と感じたんだろうなと思うんですが、人間は変化するものだし、歳を重ねれば求めるものも変わってくる。エドワードはそれに気づき、グレースは「それに気づいたエドワード」に気づかず、乖離してゆくふたりの距離にも全然気づきません。
映画には「もらい事故」的に二人の離婚に巻き込まれる息子ジェイミーの存在も描かれています。ジェイミーくらいの年齢になれば、もう少しドライに両親のことを考えられるのかなと思うのですが、つまるところジェイミーはエドワードと同じタイプ。パワフルな母親のもとで口をつぐむことが日常になっています。でもよく考えたら、エドワードは「自分は限界」と感じる妻を息子に押し付け、妻もろとも息子も捨てているわけです。
3人は「家族だから」を理由に、互いに依存してきたところがあるのかもしれず、この騒動をきっかけに互いに話し合い、自分を見つめ直すことになります。
まぁ一番の痛手を負ったのはグレースなのでしょうが、それでいて映画の面白さを全部引き受けられるのは、意地悪だけど粘着質でなく、ユーモアたっぷりなところがあるから。怒りと寂しさを紛らわすために犬を飼い、エドワードと名前をつけておすわりさせる場面とか、めちゃめちゃおかしい。本当に辛いときに救ってくれるのはユーモアだなと思うのと同時に、そういうときに「いい人」になって許さなくたっていい。他人を許すことは、意識してできるもんじゃなく、気づいたら忘れてた、くらいでいい。
人生の幸せも辛さも、それが他人に頼って出来上がるものであれば、いざというときに自分ではコントロールできません。そう考えると、結局のところ、グレースが一番いい場所にたどり着いたんじゃないかなと、かなり年上の私なんかは思うのですが、アラサー女子たちはどう見るか、個人的には興味があるところです。
『幸せの答え合わせ』
監督・脚本／ウィリアム・ニコルソン
出演／アネット・ベニング、ビル・ナイ、ジョシュ・オコナー
(c)Immersiverse Limited 2018
https://movie.kinocinema.jp/works/hopegap/
※6月4日（金）キノシネマほか全国順次公開
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