映画ライター渥美志保さんによる連載。ジャンル問わず、ほぼすべての映画をチェックしているという渥美さんイチオシの新作『5月の花嫁学校』をご紹介。作品の見どころについてたっぷりと語っていただきました!
笑顔と自由を手に入れる、カラフルな女子たち
GINGER世代より少し年上の私が20代の頃、「花嫁修業」「花嫁学校」なんて言葉が日本でも平気で使われていました。今思えば、結婚前の女子だけに当たり前のことのように(私はしてませんが…笑)言われていた「修行」、そしてそれを教える「学校」があったなんて(いや、今でもあるか)、ちょっと驚くしかありません。
この映画の舞台は1960年代、フランスの片田舎にあるそうした「花嫁学校」が舞台。ヒロインのポーレットはその学校の校長先生で、学校が掲げる「良き妻の七か条」を基本に、結婚前の女子たちを教育していくわけですが、この七か条がすごい。
「何よりもまず夫に従うこと」「家事を完璧にこなし不平不満を言わない」「常に倹約を意識して無駄遣いせず、家計をしっかり管理する」「おしゃれに気を使い愛嬌を振りまく」「お酒は飲まない」「夜のおつとめは大事な仕事」――これって「夜のおつとめ」付きの「きれいなメイドさん」なんでは…と思っちゃったのは私だけでしょうか。
実はこれより数年前のフランスでは、妻が夫の許可無く仕事を選ぶことができず、銀行口座さえ作ることができなかったのだとか。なんだか女性が自由に生きているイメージのフランスで、50年前まで、女性の「自由と権利」がこれほどまでなかったことが衝撃です。
映画の主人公ポーレットは、あるきっかけからそのあたりの「自由と権利」を手に入れ、それまで「何よりもまず従ってきた夫」の正体を知り、実のところ自分も「イヤだな」と思っていた「七か条」を捨て去る決意をします。
古い世界に生きていた彼女が「いいのかしら、恋なんて久しぶりだし…なんだかちょっと恥ずかしいようなうれしいような」というテンションで、自由へと心をひらいていくさまは、微笑ましくもチャーミングだし、そういう心境の変化で、クラシックだったファッションが、どんどんアクティブにカッコよくカラフルに変わっていくのも見どころです。
映画のラストには、それまで先生を煙たがっていた生徒たちとともに、「五月革命」が起こっているパリへ向かいます。1968年の「五月革命」は社会運動の一つなのですが、これをきっかけにフランスの女性の権利の拡大が一気に進み、フランス国内に無数にあった花嫁学校がすべてなくなったのだとか。女子が元気になれる作品です。
『5月の花嫁学校』
監督/マルタン・プロヴォ
脚本/マルタン・プロヴォ&セヴリーヌ・ヴェルバ
出演/ジュリエット・ビノシュ、ヨランド・モロー、ノエミ・ルヴォウスキー
(c)2020 - LES FILMS DU KIOSQUE - FRANCE 3 CINÉMA - ORANGE STUDIO – UMEDIA
https://5gatsu-hanayome.com/
※5月28日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国公開
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