映画ライター渥美志保さんによる連載。ジャンル問わず、ほぼすべての映画をチェックしているという渥美さんイチオシの新作『パーム・スプリングス』をご紹介。作品の見どころについてたっぷりと語っていただきました!
何の苦労もない「今日」が、永遠に続くなら?
映画の舞台は、砂漠のリゾート地パームスプリングス。そこにある豪華なホテルで、今まさに結婚式が開かれています。ゴージャスに着飾った参列者の中に一人だけ、妙に緊張感のないアロハシャツでヘラヘラしながら参加しているのが、この物語の主人公ナイルズ。なぜそうなのかといえば、ナイルズはこの結婚式に、もはや何十回(もしかしたら何百回?)も参加しているから。
なんかの拍子で「この日」から抜け出せない――1日が終わって朝目覚めると、また同じ日という「タイムループ」を繰り返しています。そのループのなかに、これまたひょんなことから、新婦の姉が取り込まれてしまったことから、物語は始まります。
映画の面白さは、「ループ」に閉じ込められた二人が、「どうせ出られない」と開き直って繰り広げるはちゃめちゃな馬鹿騒ぎ。「タイムループ」って「今日」が終わった後には、またまっさらな「今日」が始まるので、例えばどんな赤っ恥をかいても、どんなに破壊的な行為をしても、翌朝には、人の記憶も、壊れたモノも元通り。
二人はそれを逆手に取って、結婚式で一騒動を起こしたり、それどこで手に入れたの?ってな格好で飲み屋で踊ってみたり、豪邸のプールに忍び込んだり、かねてからムカついていた相手にいたずらしてみたり……と、まさにやりたい放題。面白い映画揃いの「タイムループもの」ですが、これまでありがちだった「何度繰り返せばいいんだ。なぜ自分がこんな目に。何度繰り返しても運命は変わらないのか」みたいな方向性とは真逆、愉快です。
でも何でそんなことをするかというと、つまるところ「退屈」だからなんですね。だって自分の行動は自分の日常にも、周囲の人や世の中にも、これっぽっちも影響しない。影響し合えるのはお互いだけ、つまり無人島に二人きりみたいなもんで、やがて二人は恋に...なるわけです、が...。
うまいなーと思うのは、舞台となっている一日が結婚式@リゾート地の高級ホテルだってこと。「この日」にいれば、衣食住に困らないどころか、働きもせず、お金の請求もないまま、恋人と毎日プールに入ってのんびり...みたいな贅沢な暮らしができるわけです。実は「この日」に閉じ込められている人はもう一人いて、その人の人生を見ても「うーん」と考えます。
さてあなたなら「この日」から出ようと思うか? そして、そもそも「この日」から脱出する方法は見つかるのか? ポップコーンを片手に見たくなる、能天気で楽しい1本です。
『パーム・スプリングス』
監督/マックス・バーバコウ
出演/アンディ・サムバーグ、クリスティン・ミリオティ、J・K・シモンズほか
https://palm-springs-movie.com/
(c)2020 PS FILM PRODUCTION,LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
※4月9日(金)新宿ピカデリーほか全国ロードショー
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